唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

曽根圭介さんの「本ボシ」を読む。

静岡県警富士署の新米刑事、一杉研志が物語を引っ張っていくのだが、

キャラがあいまいで、特長がみえてこない。

 いい奴なのか、ヘタレなのか、

なんだか、ぼんやりしていて気持ちが寄り添っていかない。

 

 

登場してくる他の幾人もの刑事、アパートの大家、

人権派弁護士、元刑事、読み続けているうちに、

誰も彼もが気味悪くなってくる。

 

黒く濁った部分を内に抱え、それが匂ってきそうな。

 

だが、それは人間らしさなのかもしれない。

 

一杉が、犯罪被害者家族の一人だということがはっきりすると、

その苦しみ、やるせなさが、一杉の輪郭をくっきりとさせる。

 

性犯罪、警察の隠蔽、冤罪、贖罪といった、

気の滅入るテーマが揃うが、

それでも、物語の力に結末までグイグイ引っ張られる。

 

そして、そのラストだが…。

突然、置き去りにされた気分だ。

 

あまりにも突然すぎて、周りをキョロキョロ見回しそうになった。

 

この結末は…。

 

幼女の全裸死体が発見され、一杉は初めて捜査本部に入る。

 

これまでの何件もの事件で名前が挙がった男が、

目撃情報などにより容疑者として特定される。

そして、取り調べでついに自供を引き出す。

 

事件は解決したかに見えたが、二年後、類似した

幼女殺害事件が発生する。

 

その二件を含め幼女殺害は五件起こっており、

一人の真犯人の連続殺人だと主張する元刑事。

 

一杉たちがあげた容疑者は犯人ではないのか。

「本ボシ」は本当にいるのか…。

 

 

本ボシ (講談社文庫)

本ボシ (講談社文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅暮三文さんの「百匹の踊る猫 刑事課・亜坂誠 事件ファイル001」を読む。

亜坂誠はK署の若手刑事。

離婚後、四歳の娘を引き取りながら、

仕事を続けている。

 

不規則な勤務で娘との時間を持てないことに悩み、

仕事に身が入らない。

 

そうした雰囲気が仲間にも伝わるのか、

いい加減な仕事をすると思われ、

亜坂とは誰も組みたがらなくなり、浮いた存在になっていった。

 

そんなとき、管内で五歳の少女の誘拐事件が発生する。

 

新聞社に届いた犯人からの要求は、

少女の家族が経営する化学企業が起こした水質汚染の告発。

汚染の隠蔽された真実を報道しろというものだった。

そして、「百匹の踊る猫は告げていた」という文章が

合言葉として添えてあった。

 

「百匹の踊る猫」とは一体何を示すのか。

 

亜坂は捜査一課からやってきた刑事、土橋と組む。

土橋は、独特の思考と捜査を行う男だった。

 

引っ張りまわされ、その間の土橋からの問いかけを

始めはいい加減に流していた亜坂だが、

思考し、構築した土橋の推理がことごとく事実と重なっていくのを

目の当たりにするうち、亜坂の中で刑事の魂が目を覚ましていく。

 

土橋の言う、事件の作用と反作用は、いまひとつピンと来ないが、

地道に事実を集め、積み上げ、犯人に肉薄していく様、

そして、その影響を受け、亜坂が刑事の顔になっていく様子は、

迫力がある。

 

「亜坂」シリーズも、そしてこの作家さんの「セブン」シリーズも、

どちらも土橋が登場するのだが、

どうしても土橋に目が行ってしまう。

土橋なくしては、どちらも「塩の抜けた」薄ぼんやりとした

味になってしまうのではないかと、思う。

 

百匹の踊る猫 刑事課・亜坂誠 事件ファイル001 (集英社文庫)

百匹の踊る猫 刑事課・亜坂誠 事件ファイル001 (集英社文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

深町秋生さんの「PO(プロテクションオフィサー) 警視庁組対三課・片桐美波」を読む。

タイトルに主役の名前が入っているのだから、

もうちょっと、主役らしく、全編彼女の活躍が見たかったなぁ、

というのが偽らざる思い。

 

とはいえ、要人警護ではない、民間人警護という設定や

溝ができた昔の親友との関係性など面白さは十分。

 

でも、もう一度言ってしまうが、

やっぱり、その面白さが分散し、薄れてしまった感がある。

 

殺人事件だと、どうしても捜査一課が絡んでくるから、

犯人を追い詰める面白さは、持っていかれてしまう。

 

それに、片桐班の刑事たちもなかなか魅力的なのに、

その魅力にどっぷり浸かれなかったのも不満が残る。

 

で、くどいようだが、今度は

片桐班全開の物語を、お願いします…。

 

 

ナイフや拳銃を使った強盗殺傷事件が三件立て続けに起きる。

被害者はいずれも、元暴力団員。

二件とも被害者は死亡したが、三件目の被害者、布施は

秘書が体を張って守ったため生き残る。

 

POである片桐班が布施の警護についた。

 

襲われた三人には繋がりがあるのか、

三件は単なる強盗事件なのか…。

 

捜査一課、組対三課、所轄など

全捜査員が必死に犯人を追う。

 

 

PO(プロテクション オフィサー) 警視庁組対三課・片桐美波 (祥伝社文庫)

PO(プロテクション オフィサー) 警視庁組対三課・片桐美波 (祥伝社文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

霧崎遼樹さんの「裁かれざる殺人 警視庁死番係」を読む。

所轄署の刑事、辰野は捜査一課へ抜擢された。

だが、配属されたのは、優秀だが、一筋縄ではいかない

クセ者ばかりが集まる強行班第四係、

通称「死番」係だった。

 

辰野を中心に物語は進んでいくのだが、

次から次へと魅力的な刑事が登場する。

 

例えば、班長を務める辻平。

ザ昭和といった感じの刑事だが、

気に食わなければ、上の者だろうと食って掛かる。

 

篝竜(かがり りゅう)という、

粋な名前の女性刑事。

辰野は「お竜さん」と呼ぶ。

 

若手刑事の高森。不愛想で、

殆どしゃべらない。動物的なカンがあり、

単独捜査を押してでも、犯人を逮捕する。

ついたあだ名が「狂犬」。

 

そして極め付きは、係長の旭という男。

 

キャリアでありながら、死番係の係長なのは、

どんな背景があるのか、と辰野は不思議に思う。

 

常に仏頂面で、つかみどころがない。

本心を垣間見せることもない。

 

だが、そそる存在である。

 

結末に向けて、彼の魅力は全開になる。

 

この、死番係の活躍を

もう少し見ていたい気がする。

 

上野公園の一角で男の死体が発見された。

段ボールをかぶせられていたため発見が遅れたが、

被害者は井端剛志と判明。

十代の女子に声をかけては売春を斡旋するなど、

小悪党とも言える男だった。

 

携帯電話の記録から、野分藤雄という男と

最後に連絡を取っていたことが分かったのだが、

辰野は十数年前の交番勤務時代に、野分とは面識があった。

「ちょっとお人よしで、損ばかりしている」、そんな

印象だった。

 

人は変わるのか。

 

被害者の周辺に怪しい人物は浮かんでこず、

野分に疑いの目が向けられる。

捜査情報がマスコミにリークされ、

いつしか野分は容疑者として、スクープ合戦の渦の中にいた。

 

 

 

裁かれざる殺人―警視庁死番係 (徳間文庫)

裁かれざる殺人―警視庁死番係 (徳間文庫)

 

 

 

 

 

 

田村和大さんの「筋読み」を読む。

天才的な筋読みから「ヨミヅナ」という称号をもらっている

警視庁捜査一課刑事、飯綱。

 

残念なのは、その天才ぶりになかなか出会えない、

そんなイライラ感があったような。

 

主役としてのキャラも少々あいまいで、

もっと際立っていてほしかった。

 

結末になって、やっと「ザ・刑事」が発揮されたという

感じがした。

 

どちらかというと、たまに顔出しする現場鑑識係長の桜井の

うざったいキャラに興味が沸いた。

 

遺伝子組換え、遺伝子編集、クローンといった

テーマも、それはそれで興味深いが、

捜一の刑事が扱う殺人事件との絡みに違和感は残る。

 

女性モデル殺害で、山下という男が容疑者として

浮上する。

現場から採取されたDNAが山下のものと一致し、

逮捕されるが、彼は黙秘を続ける。

 

飯綱は、供述を得られないままの起訴に反対意見を唱えた。

だが、捜査本部から外されてしまう。

 

そのころ、少年が事故にあい、

そのまま拉致されるという事件が起こった。

担当となった飯綱の捜査で少年は保護されたが、

その少年と山下のDNAはまったく同じものだという

報告が入る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若竹七海さんの「製造迷夢」を読む。

残留思念を読む、リーディングという超能力の持ち主、

井伏美潮と、渋谷猿楽署の刑事、一条風太のコンビが活躍する

五編の連作モノ。

 

「活躍する」と言っても、この作家さんの

作品『らしく』、結末を迎える時には、

後味に少々苦みが残る。

 

この苦み、読めば読むほど、

クセになるんだゎ。

 

火事から子どもを助けたために顔に火傷を負った一条。

それは、刑事としては勲章なのだが、

彼の心に陰りのようなものを残す。

 

後々わかってくるのだが、美潮も辛い過去を持ち、

その二人の醸し出す雰囲気が、妙に全体の陰となる。

 

超能力といっても、触れただけで何もかもお見通しというわけではなく、

それをきっかけに、一条が探り、推理し、真相に迫っていく。

 

そこで出会うものは、虐待、支配、人格分裂と、

どれも心の奥底に潜む悪意が形を変えて顔を表したもの。

 

中には、その悪意が取り払われずに、

別の場所でくすぶり続けるという、

「イヤミス」のような結末もあるが。

 

美潮は一条と出会って以来、事件に首を突っ込むのだが、

そのたびに美潮自身、深く傷つく。

 

じゃ、首を突っ込むなと、言いたくもなるが、

事件に巻き込まれた者たちのために、あえて、

関わっていく。

 

一条は、そんな美潮をうっとうしく思いながらも、

いつしか、守ろうとしている。

 

このコンビの行く末が気になる。

続編、出ないかなぁ。

 

 

製造迷夢 (徳間文庫)

製造迷夢 (徳間文庫)

 

 

 

 

 

 

 

宮部みゆきさんの「この世の春 上下」を読む。

この作品は、一編の壮大な冒険物語である。

 

大きな謎を解くために、石野織部、各務多紀、

田島半十郎、白田医師らが一つのチームとなり、

励まし、助け合う。

 

「闇を覗き込むと、闇に見つめ返される」という。

 

闇を直視してはいけない。

 

だが、この者たちは、前藩主、重興のために、

重興を救おうと、命を賭して闇と対決する。

 

多重人格のテーマを時代小説で取り上げた作品には

初めて出会った。

実に新鮮だった。

 

重興を呑み込んだ闇の深さ、

彼を取り巻く人々の驚き、嘆きを

幅広く、分厚く、見事に描き切っている。

 

謎は複雑化しているが、

闇と戦う仲間たちという図式は実にシンプルで、

心にすっと入り込む。

 

そして、その仲間は誰しもが、

まっすぐで素直、すがすがしく温かい。

 

だからこそ、どんなおどろおどろしい状況でも、

安心して読んでいける。

 

ただ一つだけ。

 

重興を呑み込んだ真っ暗な闇を作り出した動機が、

その闇の深さにしては、少々弱いような気がするのだが。

 

父親が急逝し、その跡を継いで北見藩藩主となった重興は、

五年後、突如、病気を理由に「主君押込」を受け、強制隠居させられた。

病気とは表向きの理由で、実は不可解な言動が目立ち、

これ以上藩政を任せられるような状態ではないと判断され、

北見藩の別邸、五香苑に幽閉される。

 

快活で聡明だった重興を知る人々は、その処遇に驚き、悲しむ。

五香苑の館守という任についた元江戸家老の石野織部もその一人だった。

 

重興の不可解な言動とは。

彼を変えてしまったものは、一体なにか。

 

北見藩作事方、各務数右衛門の娘、多紀も

父が亡くなった後、重興の世話係として五香苑へ呼ばれる。

さらに、重興の治療を務める白田登が、

多紀の「用心棒」として、多紀の従弟の半十郎が、

重興を支え、守り、救おうとする人々が

徐々に五香苑に集まる。

 

 

この世の春 上

この世の春 上

 
この世の春 下

この世の春 下