唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

大倉崇裕さんの「白虹」を読む。

 

白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

 

 

 

この作家さんのシリーズものでは、

「福家警部補」や「警視庁いきもの係」、「問題物件」シリーズが

好物だ。

 

この作品は山岳ミステリー。持っている引き出しの数は多いなぁ

 

主人公、五木健司は警官だった頃に犯したミスが傷となり、辞職。

その傷はじくじくといつまでもうずき、

その痛みから逃れるように、山小屋でのアルバイト生活を続ける。

 

と、過去に傷持つ主人公ってのは、どこにでも転がっているような気がする。

 

ここでも、多くの作品の主人公と同様に、

過去の傷が手かせ、足かせになり、いつまでも前を向けない。

 

当人はどうであれ、五木の周囲には、多くの人が

彼に手を差し伸べようとする。

 

それに対して、いつまでもかたくなに心を閉ざす主人公には、

少々イラっともするのだが。

 

 

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だが、そんな彼が、遭難しかけた男を助けたことにより、

殺人事件に巻き込まれる。

 

かつては「辞職しなければ、いい刑事になった」とまで

言われていた彼は、事件の真相追求に前のめりになっていく。

 

事件のすべてが明らかになったとき、

過去の傷は、本当に過去のものになっていく。

再生の物語でよかった…。

呉勝浩さんの「マトリョーシカ・ブラッド」を読む。

 

マトリョーシカ・ブラッド (文芸書)

マトリョーシカ・ブラッド (文芸書)

 

 

 

クセの強すぎる刑事が、ワンサカ登場してきて、ゾクゾクする。

 

その一人一人が、組織の闇に押しつぶされそうになりながらも、

刑事であること、刑事であり続けることにこだわり、

苦しみながらも、自分なりの決着をつけようとする。

 

そんな彼らの、苦しい息遣いが、すぐ隣に感じられそうで、

ホント、(二度目ですが)ゾクゾクするのです。

 

本の帯に、「巨悪の闇」なんて、デカデカとあったので、

また、不正とか隠蔽とか、警察組織のやらしさがテーマなのか、

うっとうしいなぁと思ったのだが、

その横の、「神奈川県警と警視庁のはぐれ刑事たちが

手を組んで迫る」というフレーズに心が持ってかれた。

 

犬猿の中とか言われる、警視庁と神奈川県警、

そんな中、きっと一筋縄ではいかないような「はぐれ刑事」が

手を組むなんて、どんなことをやってくれるのだろう、

読む前から、なんか、ワクワクした。

 

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神奈川県の通信指令センターに匿名の通報が入る。

「五年前、陣馬山に遺体を埋めた。…埋まっているのは香取富士夫だ」。

 

その名前を聞いた神奈川県警の彦坂巡査部長は、愕然とする。

それは、五年前、彦坂も加担した、県警が隠蔽した案件の関係者だった。

 

 

そして、白骨遺体とともに、血の付いたマトリョーシカが発見される。

 

動揺する神奈川県警だが、さらに第二の事件が。

今度は、八王子で惨殺死体が発見され、現場には、

第一の事件と関連を示すように、マトリョーシカが残されていた。

 

発端の事件をあくまでも隠そうとする県警上層部に対し、

刑事としての自分を見失いそうになりながら、最後は、真相の究明に

立ち上がる彦坂。

 

八王子署刑事、いいとこボンボンの六條と、

コンビを組む警視庁捜一の変わり者、辰巳。

この二人が第二の事件から捜査を進めていく。

 

そして、事件の結末に納得がいかない六條が、

彦坂と辰巳を巻き込んで、最後の決着をつけようとする場面では、

ゾワっと、鳥肌が立った感じがした。

 

六條が見た結末は…、

組織の闇ではなく、人間の、一人の人間の業だということが、かえって、

ああ、警察小説を読んだ、という気にさせてくれた。

 

唯々、刑事であるがために突っ走った男たちの、

その後が知りたい…。 

 

大沢在昌さんの「極悪専用」を読む。

 

極悪専用 (文春文庫)

極悪専用 (文春文庫)

 

 

 

賃料の月額が百万、部屋によっては数千万という途方もない高級マンション、

なのだが、住民はすべて、闇社会の悪党ばかり。

 

住民同士の殺し合いも日常茶飯事で、死体はすべて、

特別回収業者が処分してくれる。

 

そこでは、管理人がただ一人、住民のプライバシーを守っている。

 

そんなマンションに放り込まれたのは、「俺」である望月拓馬。

大物の祖父のおかげで、オンナ、麻薬、酒、車、

何の不自由もなく、好き勝手な生活を送っていた。

 

だが、その度を越したヤンチャぶりに腹を立てた祖父の命により、

彼は拉致られ、管理人の助手としてそのマンションに放り込まれた。

 

逃亡したり、上司にたてついたら、そく処理されるという状況で、

「とりあえず、一年頑張れ」と祖父から突き放されるのだが…。

 

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ハチャメチャ感は十分、伝わってくるのだが、

悪党たちの顔が今一つ、はっきりしない。

その存在感は希薄で、軽めのハードボイルドを読んでいるような

感覚だ。

 

だが、この物語は、ノワールというより、

オッサン管理人、白旗と拓馬との心の交流(あれば、の話だが)

を描いた物語なのかもしれない。

 

初めからコメディとうたっているから、

この作家さん特有のヒリヒリ感は、またの機会ということで…。

 

大倉崇裕さんの「アロワナを愛した容疑者」を読む。

 

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係

 

 

 

読み始めてそうそう、ビックリした。

 

この作家さんの人気シリーズの主人公、

福家警部補が登場したのだ(電話でだけど)が、

なんと、京都に赴任しているではないか。

いつの間に?

 

よく読んでみたら、東京の捜査一課との

人事交流だとか。

 

そういえば、この「警視庁いきもの係」シリーズと、

「福家警部補」シリーズとも、

「人事交流」がしばしばみられる。

須藤や石松も、たまに「福家」シリーズに顔を出してたなぁ。

 

そして、薄と須藤の、漫才のような掛け合いは健在である。

薄の怪しげな日本語に振り回される須藤、

おなじみのパターンなのだが、

ますます、磨きがかかってきたようだ。

 

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これまでの作品では、

薄の知力が十分に発揮されていたが、

今作ではそれに加えて、逮捕術にも優れているのにも

驚かされた。

 

現場を恋しがり、一課復帰を心のどこかで望んでいた須藤も、

もう、「一課をなつかしく思うことはなくなった」らしい。

「ここに骨を埋めるのも悪くはない」と思い始めている。

それほどに、薄や弘子との絆が強くなってきたということだろう。

 

それに、薄を「お嬢ちゃん」とからかって呼ぶ石松も、

薄が「これは、殺人です」と断言すると、

何も言わずに捜査を開始する。

 

この打てば響くような連携は、ここまで信頼関係を築いたのだと、

うれしくなってしまう。

 

とにかく、犯人を追っかけるのはもちろん、

動物や植物の蘊蓄も合わせて、楽しめる作品だ。

原寮さんの「それまでの明日」を読む。

 

それまでの明日

それまでの明日

 

 

 

1988年、沢崎が初めて登場した「そして夜は甦る」からはや三十年。

 

その間、沢崎シリーズは、今作を含め六作。

なんと、前作から十四年たっているのだという。

読み始めたころは若かったワタシも…。

次を待つ間に、忘れてしまうんだヮ。

 

でも、ホント、作品の色は変わらない。

言うなれば、モノトーン。

モノクロ映画を見ているような雰囲気。

 

古き(決して、悪い意味ではなく)時代のハードボイルドの香りが

いい具合に漂う。

 

少々クサめの、探偵の言い回しも、懐かしいトーンだ。

 

喫煙できるところが少なくなった今に逆行するよう、

タバコの煙が充満する。

 

探偵の沢崎と、刑事である錦織、田島の関係も相変わらずで

おもしろい。

お互い、毛嫌いしているようで、妙に呼吸があう。

 

その様は、メンドーくさいオッサン三人が、

乳繰り合っているように見えなくもない。

 

でも、新宿って街、実にハードボイルドが似合う。

格好の舞台だ。

人の涙や汗や、血の匂いがプンプンしてきそうで。

人間臭いなぁ。

 

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沢崎のもとを訪れたのは、今の時代、お目に掛かれないような

紳士然とした男性。金融会社の支店長だという。

 

彼からの依頼、「料亭<業平>の女将の身辺調査」を進めると、

当の女将はすでに亡くなっていることが判明する。

 

依頼人に報告するため金融会社を訪れた沢崎は、

強盗事件に巻き込まれる。

 

そして、依頼人は姿を消してしまうのだ。

丈武琉さんの「セオイ」を読む。

 

 

セオイ (ハヤカワ文庫JA)

セオイ (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

「セオイ」、これは謎の伝承の技なのだという。

 

他人の人格に一時的に入り込み、その人生を修正するという、

 

って、この解釈でいいのか?

 

その技を使う鏡山零ニと、助手の美優が物語を引っ張る。

 

「あなたの人生背負います」という広告にひかれ、

何人もが鏡山のもとを訪れ、そして救われている。

 

 

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だが、ある日、作家の事故死に不審なものを感じた

刑事に目を付けられることに…。

 

そのころ、街では、殺害後、その死体に処理を施し、

如来のような格好で置かれるという殺人事件が連続で起こっていた。

 

鏡山の過去の因縁と、連続殺人がリンクしていく…。

 

オカルトめいたストーリー展開の中で、奇妙な気配も漂い、

たまに訪れるヒリヒリ感に誘われて、読んでしまった。

 

この結末は、次があるのか?

 

葉真中顕さんの「絶叫」を読む。

 

絶叫 (光文社文庫)

絶叫 (光文社文庫)

 

 

 

「転落していく人生」、

サスペンスやミステリーのネタとしては、

ありがちな設定だと、思った。

 

そう思いながら、反対に、特殊な話でもあると、

思った。

 

事件捜査の進展とともに、

被害者の人生が並行して描かれていく。

 

人は、どこで躓き、どこで間違えるのだろうか。

どうやって、「普通」の社会生活から

転げ落ちてゆくのか。

 

人は誰でも、自分の居場所を探そうとする。

だが、本当に快適な居場所などあるのか。

というより、居場所は本当に必要なのか。

 

事件を捜査する女刑事、奥貫綾乃も、

居場所を探し、そしてそれを失った一人だ。

 

事件の被害者は、どんどん転がり落ち、

そして破滅に向かっていくかのように見える。

 

だが、結末では…。

 

人間とは、なぜに、これほど不安定で、バランスの悪い、

厄介な生き物なのか。

 

そして、「絶叫」、それは誰の喉からほとばしる

叫びなのだろうか。

 

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密閉されたマンションの一室で見つかった女性の死体。

それは、数カ月たち、数匹の飼い猫に食べられた後のある

無残なものだった。

 

死因も判明せず、孤独死として処理されようとしたが、

被害者、鈴木陽子の足跡をたどるうち、

大きな闇が浮かび上がってくる。