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ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

あの奇跡的「いい人」、猫弁が帰ってきた!大山淳子さんの「猫弁と星の王子」を読む。

 

 

猫弁と星の王子

猫弁と星の王子

  • 作者:大山淳子
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: Kindle版
 

  

 

「猫弁」シリーズが帰ってきた!

思いがけなかったので、ホントに嬉しい。

 

ユーモアたっぷりの文体は健在で、

あちこちでクスリ、クスリとしてしまう。

 

猫弁こと、百瀬太郎の人に対するあたたかさ、そして、

時々、切なさ、その太郎を見守る、七重や野呂、獣医のまことらの

あたたかい眼差しも、前シリーズ通り。

 

天才でありながら、常識的な面はポンコツの太郎。

その奇跡的な善人ぶりに、それだけで、涙がにじんでくる。

いい人の太郎が、依頼人を思うあまり、

傷を負わないでいてくれと、願ってしまう。

 

さて、今作も、入学金詐欺や「死なない猫」騒動、

赤ちゃんの置き去りなど、猫弁の周りでは

ドタバタとさまざまな事件が起き、そして、

太郎の奮闘で、収まる所に収まっていくのも、変わらず。

 

この安定感で、やっぱり、安心して読める。

 

刑事と漫才師の二足のわらじを履く男(!)、トンデモな設定のアホらしさ。面白さがジワジワくる。田中啓文さんの「漫才刑事」を読む。

 

漫才刑事 (実業之日本社文庫)

漫才刑事 (実業之日本社文庫)

  • 作者:田中 啓文
  • 発売日: 2016/10/06
  • メディア: 文庫
 

 

 

刑事と漫才師の二足のわらじを履く、くるくるのケンこと、高山一郎。

二足のわらじは、副業禁止の警察はもちろんのこと、お笑いの相方にも内緒で、

事件現場と舞台を行ったり来たりし、危ない橋を渡っている。

 

トンデモ設定で、こりゃもう、バカミスに近い、いや、そのもの。

 

アホらしさも、必ず漫才師が絡んだ事件が起こるのも、

ドタバタした感じも、さらに、高山の秘密を掴んで、

「脅して」くる、交通課の城崎ゆう子も、何だかなぁ~と思って

読み始めたけど、じわじわと来るクセの強さで、

気が付けば読了していた。

 

そりゃないだろぅ、とツッコミながら、読めるのも楽しい。

 

ただ、漫才って、字面だけじゃ、ピンとこないんだなぁ、

やはり、演じられたものを見なきゃ、

面白さは伝わらないんだということがわかった。

 

 

生真面目な神崎と型破りな黒木、池袋署のお騒がせコンビが帰ってきた!横関大さんの「帰ってきたK2 池袋署刑事課 神崎・黒木」を読む。

 

帰ってきたK2 池袋署刑事課 神崎・黒木

帰ってきたK2 池袋署刑事課 神崎・黒木

  • 作者:横関 大
  • 発売日: 2020/09/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

池袋署のお騒がせコンビ、神崎と黒木が活躍する刑事モノの連作短編で、

「K2 池袋署刑事課 神崎・黒木」の続編。

 

ちょうど、ドラマ化されたものが始まったばかりだが、

原作とは設定が大分違っている。

ま、ドラマはドラマ、別物として楽しめる。

 

続編は、殺人事件もあるけれど、ストーカー事件、

アニメ原画の盗難事件、ビルの階段からの転落事件など、

池袋で起きるさまざまな事件に、お騒がせコンビが挑んでいく。

 

どの事件も、「挑む」というほど紆余曲折があるわけではなく、

どちらかというと、あっさり解決していくのだが。

 

前作は、黒木の過去が絡んできて、

なかなか読み応えがあった。

その点、今回は、少々物足りなさを感じた。

 

それでも、二人の関係性ややり取り、同僚刑事のエピソードなど、

これはこれで、楽しめた。

 

 

三歳で亡くなった息子、良一を名乗る男がお草さんの前に現れた…、ざわざわする。吉永南央さんの「初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ」を読む。

 

初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ

初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ

  • 作者:吉永 南央
  • 発売日: 2020/08/28
  • メディア: 単行本
 

 

 

「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズの、はや、八作目。

 

和食器とコーヒー豆を販売する粋な店、小蔵屋を経営するお草さん。

緩やかで、優しい物語ではあるが、決してそればかりでなく、

少しばかりの苦味や、哀しみが流れている。

 

年を重ねる大人たちが、誰しも感じる寂寥感や焦りのようなものを

真正面から突き付けるのではなく、じんわりと思い起こさせる物語。

 

それは、お草さんの年齢のせいか、それとも、

若いころ、幼い息子を取り上げられたまま婚家を追い出され、

その後すぐ、その息子を水の事故で亡くすという

彼女の過去せいなのか。

 

今まで出来たことが出来なくなったり、

残された時間が短いことに、ふと気づく。

老いというものを認めながら、それでも、向こうへ追いやりながら、

今日という日を誠実に生きる。

その生き方の裏には、息子を残してきたという

数十年たっても消えない悔いがあるからか。

 

お草さんがする、遠慮がちなお節介には、

その悔いが根底にある。

「誰かが一言、声をかけていれば、見守っていさえすれば」

最悪な事態になる前に止められるかもしれないと。

そして、遠慮がちに差し出す手に、どれだけの人々が救われていることか。

 

時には、切なく悲しい結末もあるけれど、

「そのまんまを受け入れていくしかない」と言われているような気がする。

 

さて、今作は、お草さんの悲しい過去にまつわる物語。

「自分は、あなたの息子の良一だ」という男が現れる。

そんなはずはない、と思いながらも、揺れ動くお草さん。

過去と向き合うことに。

 

 

 

楽しくて、あたたかな花咲小路商店街。今回の物語の主人公は、弱冠十九歳で駐車場の経営主のすばるちゃん。小路幸也さんの「花咲小路三丁目北角のすばるちゃん」を読む。

 

花咲小路三丁目北角のすばるちゃん (ポプラ文庫)
 

 

 

「花咲小路商店街」シリーズの五作目。

 

この作家さんの人気シリーズ、「東京バンドワゴン」と同様、

登場人物が全員、良い人。

一っかけらの悪意もなく、だからこそ、

安心して読んでいられる。

 

この「安心して読める」という特徴は、実に、大事。

 

今作の主人公、すばるちゃんも、

誠実で、まっすぐ、一点の曇りなしという、

まあ、普通だったら、「またまたぁ~」と、

眉に唾でもつけたくなるような性格。

 

だが、この作家さんの描く物語には、

こういう人物がゴロゴロ登場する。

 

読者であるワタシは、裏切りも、騙し討ちもない、

この緩やかで、温かで、夢のような世界で、

本当に、安心して、家にも、車にも、そして心にも、

カギをかけずに、出かけてしまえる。

 

殺戮、陰謀、、、そんなストーリーに疲れると、

戻ってきたくなる、そんな世界だ。

 

すばるちゃんと、そして、周囲の人々との物語は

これからも続くのだろうし、また、

淳ちゃん刑事や、花乃子さん、ミケさんなどが、

あちこちに顔を出すように、

すばるちゃんのこれからも、花咲小路商店街の別の物語で、

語られることもあるのだろう。

 

「向かない」と言いながら、今や、刑事そのもの。椎名真帆シリーズの三作目。山邑圭さんの「刑事に向かない女 黙認捜査」を読む。

 

刑事に向かない女 黙認捜査 (角川文庫)

刑事に向かない女 黙認捜査 (角川文庫)

  • 作者:山邑 圭
  • 発売日: 2020/08/25
  • メディア: Kindle版
 

 

 

本当は、事務職に就きたかったのだが、

間違って刑事になってしまったオンナ、

椎名真帆巡査シリーズの三作目。

 

始めは、「いつだって辞めてやる」とグチっていた真帆だが、

今作では、そのグチが聞かれなかったなぁと、

読み終わって気づいた。

 

いつの間にか、ホンモノの刑事になったんだな、と。

 

スリリングな展開もあり、コンビを組む吾妻との、

つかず離れずの関係性も面白い。

 

解体中のビルで男性の首つり死体が発見された。

その男性は元警察官で、強制わいせつで服役し、

出所したばかりだった。

 

自殺で片付きそうだったが、

真帆は、現場にいくつかの違和感を持つ。

 

他殺を疑う真帆は、新藤班長のサポートを受け、

調べ始める。

 

ちょうどその頃、捜査一課の芦川は、

ある人物の内偵を副総監から命じられていた。

 

真帆の捜査と芦川の内偵という二つの点が、

一本の線で結ばれていく…。

 

自分の嗅覚を信じ、ひたすら事件を追う真帆の姿は、刑事そのものだ。

 

頑固なやり方は、敵を多く作りそうなのだが、

周りのオジサンたちは、温かい。

 

だからこそ、突っ走る真帆を、安心してみていられる。

 

このシリーズも、ますます安定感を増し、

続編が楽しみになる。

 

立ち止まっていた心が動き出す…、きっかけは、祖母から頼まれた、歌舞伎を観劇するというバイトだった。近藤史恵さんの「歌舞伎座の怪紳士」を読む。

 

歌舞伎座の怪紳士 (文芸書)

歌舞伎座の怪紳士 (文芸書)

  • 作者:近藤史恵
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 単行本
 

 

 

心に傷を負い、立ち直ることもままならない主人公が、

あることをきっかけに、顔を上げ、前へ向いて歩くことができるようになる。

 

いわゆる、再生の物語。

再生の物語は心地よい。

 

この作家さんの、主人公に向ける

温かな視線も、心地よい。

 

ある程度の年月を生きてきた大人たちは、

何かしらの屈託や、傷を抱えている。

 

知らない間に、その傷が大きくなり、

足が一歩も前に出なくなる時が来るのかもしれない。

 

そんな場合の、再生の物語は、

自分さえその気になれば、

人は再生できることを、気づかせてくれるから。

 

久澄は、勤めていた会社で強烈なパワハラを受け、その結果パニック障害を患う。

引きこもり状態を続けては’いたが、先のことを考え、

悶々とした日々を送っていた。

 

そんな時、歌舞伎の代理観劇のアルバイトを祖母から頼まれる。

 

恐る恐る出かけて行った久澄は、歌舞伎の楽しさを知ることになる。

 

その後も、祖母からの、歌舞伎やオペラの鑑賞アルバイトは続く。

行く先々で、トラブルや事件に遭遇するのだが、必ずと言っていいほど、

姿を現す謎の紳士に助けられたり、助言を受けたりしながら、

決着を付けていく。

 

作品中に歌舞伎の演目やオペラに関する、もう一つの物語も、

面白い。

先日読んだ、本をめぐる物語もそうだが、

別の作品の紹介や解説が、作品本体を邪魔せず、

スッと差し込まれているものは、得した気分になる。

 

怪紳士にも、物語があり、それに連なる、

結末の余韻は、心にしみる…。