沼田まほかるさんの「九月が永遠に続けば」を読む。
平穏な暮らしなどどこにもない。
一見、平穏に見える毎日にも落とし穴が潜んでおり、
その穴は黒く、暗く、永遠の底なし沼。何が真実か、
まやかしか。
それぞれが抱える事情も立ち位置が変われば、別の顔が見えてくる。
不穏で不可思議、陰惨な事柄が続き、読んでいる間、
座りが悪いというか、とらえどころのない不安に支配されていた。
足下がおぼつかなく、足を踏み外すと、
奈落に沈みそうな恐ろしさがまとわりつく。
息子の文彦が、ある晩、突然失踪し、
佐知子は必死でその行方を探す。
そして、男女の関係を続けていた、
教習所の教官、犀田が謎の死を遂げる。
別れた夫、雄一郎とその再婚相手、亜沙美、
その娘の冬子、そして佐知子との関係は実に不可思議。
親と子、そして男と女をもみくちゃにする愛というもの。
正解のない問いかけは虚しい。
それに、亜沙美の存在自体が恐ろしい。
異様な愛の物語は、とても日常とは言い難く、
そんな中で、ナズナの父親、服部の関西弁や、
ずかずかと踏み込んでくる厚かましさは、
かえって普通であることが強調され、妙に安心した。
それにしても、人間の心とは不思議なものだ。
正視したくない真実に向き合ったあとでも、
日常生活を続けていける。
そうでなければならないのだろうが、
そのことが一番恐ろしいのかもしれない。