大倉崇裕さんの「福家警部補の考察」を読む。
臨場時のドタバタは相変わらず。
鋭い洞察力、そして人間観察力も相変わらず。
第一作の「福家警部補の挨拶」から読んでいる人には、
もうおなじみだ。
ああ、いつも通りと、こうしたルーチンのような進み方は、
安心感があって、落ち着く。
それだからこそ、読みやすい。
一貫した倒叙ミステリーで、それ以上でもそれ以下でもない。
無駄な感傷を削ぎ落した、実に洗練されたストーリーだ。
犯罪者にとって、敵に回したらこんなに厄介な人物はいない。
ここまで食い下がられると、途中で、もう、どうでもよくなって、
罪を認めたくなるだろう。
まっとうな人間には優しいが、
犯人ばかりでなく、こずるい輩には、徹底して冷たく、厳しい。
福家シリーズは、犯人を追い詰めていく、
そのプロセスが本筋なのだが、
その脇で、福家に接するうち、事件関係者たちの心模様に変化が生じる。
その様子も実に興味深い。
そうやって影響を与え、時には、その人生をも変えてしまうことがある。
それもこれも、福家にはすべてお見通しなのかもしれないが。
福家警部補シリーズの五作目。四編が収録されている。
今回、福家が追い詰める犯人の面々は、
医師、専業主婦、バーテンダー、証券マン。
またたまに、この作家さんの警察モノでおなじみの
石松、日塔、須藤といった名刑事たちが登場してくるのも、
シリーズのファンにとっては嬉しい。
そして時々話題になる、福家の上司。
前にも、福家は「口うるさい上司ですが、もの分かりもいいほうでしてね。
私の報告をじっくり聞いてくれました」と語るシーンがある。
どんな上司なのか、ますます興味がわいてくる。
さらに、映画、酒ばかりでなく、漫才やフィギュアなどなど、
幅広い知識を披露するくだりは、いつ読んでも驚く。
徹夜で何日も仕事をしているくせに、これだけの
趣味をいつ持てるのだろう。
ともかく、福家という人物への興味は尽きることがないのであります。
福家警部補の考察 福家警部補シリーズ (創元クライム・クラブ)
- 作者: 大倉崇裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2018/05/21
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る