唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

香納諒一さんの「贄の夜会」を読む。

実に重厚な作品だ。

 

登場する刑事たちは、根っからの刑事で、
職人だ。
 
ひとりひとりが捜査技術にたけ、その腕にプライドを持ち、
手の内を容易には明かさない。
 
そのプライドと、そして粘りの先に犯人の後ろ姿が見えてくる。
 
「犯罪被害者家族の集い」に参加した女性二人の死体が
教会で発見される。
 
一人は殺された後に両手を切り取られ、
もう一人は頭を石段に何度もたたきつけられて割られるという
凄惨な現場だった。
 
「被害者家族の集い」にはある弁護士が出席していた。
十九年前、十四歳のときに彼は同級生を殺し、その首を切断、
校門に晒すという事件を起こしていた。
 
さらに、その他に三人を殺害していたことが
後に判明している。
 
だが、弁護士には確固としたアリバイがあったことから、
事件はますます混迷を深める。
 
捜査が進む中で、点と点が線で結ばれていく。
 
クライマックスが近づくと緊迫感が増し、そうなるともう、
深夜だろうが、夜明け前だろうが、結末まで本を閉じることはできない。
 
犯人を追う側の主役である大河内刑事は、
娘を三歳で失っている。
 
その時点から、彼は大きな悲しみと虚しさを抱えて
生き続けている。
 
また、追われる側にも主役がいる。
 
大河内が違和感を感じた被害者の夫、目取真は実は、
殺し屋だった。
 
彼は仕事の傍ら、妻を殺した犯人を捜し、追う。
 
そして事件は、警察の暗部へと広がっていく。
 
犯人、それを追う現場の刑事、殺し屋、警察上層部、
ヤクザ、三つ巴、四つ巴、それ以上に、絡まって、
なかなかと複雑な様相を呈するのだが、
職人刑事たちが一つ一つ地道に疑いを潰し、
事実を積み上げていくことで、私たちは迷子にならずに
結末へと導かれる。
 
追う者も、追われる者も、その生き様は悲しく、
切ない…。
 

 

贄の夜会〈上〉 (文春文庫)

贄の夜会〈上〉 (文春文庫)

 

 

 

贄の夜会〈下〉 (文春文庫)

贄の夜会〈下〉 (文春文庫)