大山淳子さんの「原之内菊子の憂鬱なインタビュー」を読む。
なで肩で、お尻のどっしりしたオバサン体型。
おたふく顔の原之内菊子。
だが、彼女には、特別な才能があった。
彼女の顔を見るやいなや、人は自分のことを
しゃべりたくて、しゃべりたくて仕方なくなるのだ。
悩み、グチ、何もかも…。
そのために彼女はトラブルを抱え込み、
職を転々としていた。
天ぷら屋でアルバイトをしていた彼女を見染めたのが、
弱小の編集プロダクション「三巴企画」の戸部社長だった。
彼女に会うと、人はベラベラと話をしたがる、
それは、取材記者として、ドンピシャじゃないだろうか。
そして、三巴企画の唯一の社員、桐谷俊、
生真面目で融通がきかない童話オタクの彼も
彼女の魔術にかかった一人。
菊子に心の内をさらけ出し、また、
彼女を取り巻く人々の変化を目の当たりにするうち、
彼自身も変化していくことに気づく。
さて、三巴企画のインタビュアーになった菊子は、
やくざの組長の取材に出かけるが、
とんでもない事件に発展して…。
ストーリー半ばまで、菊子より戸部社長のキャラが際立ち、
菊子自身や心のうちの輪郭がぼんやりして、
物語に引き込まれるまでにはいかなかった。
人は胸の内、悩みやグチ、本音やたまった毒素を
人に向かって吐き出せば、
吐き出した人は楽にはなるだろう。
だが、本当に、楽になるのだろうか。
本音を漏らしたことを後悔しないのだろうか。
また、「話され症」の菊子に、
人々の「語り」は溜まっていかないのだろうか。
余計なことを考えてしまった。