あさのあつこさんの「花を呑む」を読む。
抜き身の剣呑さを懐に飲むふたりの男。
一人は、北定町廻り同心、木暮信次郎。
そして、もう一人は、かつて、人を斬る暗殺者であった
遠野屋清之介。
あまりに違い、あまりに似た、この二人の因縁は、
いつまで続くのだろうか。
二人が対峙する場面は、いつでも息苦しい。
しかし、その息苦しさを少しでも和らげるのが、
信次郎につかえる岡っ引きの伊佐治の存在だ。
暗く、重い、信次郎と清之介のあり様とは対照的な存在。
唯一、まっとうな考え方をし、二人の危ういバランスを
なんとか保つ役目を果たす。
だが、この伊佐治も、二人との付き合いを続けるうち、
危うさに飲み込まれそうになっているのではないか。
なにしろ、信次郎に魅せられ、離れられなくなっているのだから…。
清之介にしろ、伊佐治にしろ、
その視点で心模様が語られるのだが、
信次郎の内面は、見ることができない。
このことが、どうも、座りの悪い気持ちにさせられる。
ともかく、微妙なバランスを保ちながら、三人の男たちは、
江戸の町で起こる事件に挑んでいく。
老舗の油問屋、東海屋の奥座敷で怪異が続く。
鏡台の奥から髪の毛が出てきて、女中の手にからまったり、
女の幽霊が現れたり…。
その直後、主の五平が異様な死体となって発見される。
外傷はないものの、口の中に大量の牡丹の花が詰め込まれていた。
そして、座敷には、甘い香りが漂っている。
五平には、外に囲った女、お宮との別れ話が出ており、
下手人としてお宮の名があがるが、
お宮は、牡丹の花の下で自害していた…。