小路幸也さんの「アンド・アイ・ラブ・ハー」を読む。
「東京バンドワゴン」シリーズも14作目だとか。
このシリーズを読んでいると、
ワタシらの世代が育った、「向こう三軒両隣」的なものが
鮮やかに思い出され、昭和の真っただ中にいるような
気にさせてくれる。
自分の原風景を見るようで、涙がにじんでくるのだ。
今、現代社会では、ご近所の交流といったら、
トラブルしか思い描けないから余計だ。
ご近所の付き合いを、誰もが面倒がらずに、
楽しんでいる。
助け、助けられ、これはもう、
今としては、理想としか言いようがない。
なかなか手に入らないもの、だからこそ、
人の心を掴むのだろう。
この堀田家の雰囲気は、決して変わることなく、
そこにあり続ける。
裏堀田家の姿など、思いようがない。
悪意の陰すら見えない。
だからこそ安心して、
読み進めることができる。
そんな、安心感がシリーズを支えている。
哀しく、心がささくれ立つような展開を
誰も望まない。
ぬるいと言われようと、
日の光が差し込む結末を求めるのだ。
今作は、「秋」から始まって「夏」まで、
四季の副題がついた、4つの物語。
家族が大切にしている人との永遠の別れや、
思いがけない決心など、相変わらず、様々な出来事が
起こるが、収まる所に、収まるべくして、収まっていく。