唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

中山七里さんの「能面検事」を読む。

 

能面検事

能面検事

 

 

 

一ミリたりとも表情筋が動かない、感情を表出することはない、

上司だろうが、そのまた、上だろうが、

どんな相手に対しても、態度を変えることはない。

KY、どころではない。

 

大阪地検の一級検事、不破俊太郎が主人公。

 

無理難題を言われようが、従えなければ、

涼しい顔をして、「ノー」と言う。もちろん、仕事は一流。

そのため、「能面検事」と呼ばれ、畏怖されている。

 

ただの堅物ではない、

融通が利かない、どころでもない。

 

読み始めは、主人公でありながら、感情の揺れ動きが見えず、

感情移入が難しかった。

だが、この男、ここまで来ると、かえって興味深い。

 

生まれ落ちた時から、「能面」だったわけではなさそうで、

こうした人物が作り上げられるきっかけとなった事件は、

後ろの方で明かされる。

 

不破検事と事務官の惣領美晴は、世間を騒がした

西成ストーカー事件を担当する。

 

この事件は、アパートの一室で、女性と男性の刺殺死体が発見され、

警察の捜査で、女性は須磨菜摘、男性は彼女の同棲相手、

楠葉峰隆と判明する。

 

捜査が進むうち、須磨はストーカーされていたことが分かり、

そのストーカー相手、谷田貝が容疑者として浮かび上がる。

だが、谷田貝からの自供が取れないまま、送検されてきたのだ。

 

不破が谷田貝の捜査を見直すさなか、

所轄に保管されているはずの捜査資料や証拠物件が

無くなっていることに気づく。

 

それをきっかけにして、大阪府警を巻き込んだ、

捜査資料紛失、隠蔽スキャンダルが明らかにされていく。

 

隠蔽に関与した、各所轄の署長以下、

総勢九十七人が処分されるという一大騒動に発展、

そのきっかけを作り、不祥事を暴いた不破は、

大阪府警の全警察官を敵に回すことになる…。

 

とにかく、不破は、上の人間に脅されようと、

なだめすかされようと、顔色一つ変えず、淡々と自分の仕事を進めていく。

 

「自分の流儀に反することはしない」。

それだけの理由で。

 

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人間はブレるものだと思う。

 

壁にぶち当たり、軌道修正していく。

ひょっとしたら、それまでの想いとは全く逆の考えに

至るかもしれない。

それが、人間の面白味を倍加する。

 

だが、不破のように、徹底して、最後まで、

まったくブレないという人間も、面白いものだと思わされた。

 

ただ、傍にいる事務官の美晴。

名探偵によりそうワトソン役としては、まったくの役不足だ。

実に、うるさい。

 

次があるとしたら、少しは、成長した姿を見せてもらえるのだろうか。