オッサン探偵は、誰よりも純情…。樋口有介さんの「うしろから歩いてくる微笑」
まあ、相も変わらず、美女が続々登場してくる。
そして、美女に弱いところもいつもながら。
柚木草平は健在です。
いい加減、シャキッとしなさいよ、と思うのだが、
このクセがなくなったら、柚木ではなくなるのだろう。
結局は、女たちのほうがクセモノで、
柚木は、彼女らの掌の上で、コロリコロリとしている。
ハードボイルドというのは、主人公の心の声がダダ洩れになる。
柚木の理屈っぽい、その声がジャマくさいと思うこともあるだろうが、
柚木特有の言い回しが、昭和のハードボイルドを感じさせ、
ワタシなんかは、落ち着く。
男の流儀とか、ダンディズムとか、
令和の時代にあっては死語のようなモノを、
中年のオッサン探偵は、後生大事に抱きしめている。
そんなオッサンたちは、今の男の子よりもずっと、
純情なのかもしれない。
前の事件で知り合った美早や、その母親、千絵など
美女軍団との「賭け」がキッカケで調べ始めた
十年前の女子高生失踪事件が、一つの殺人と
一つの自殺に結びついていく。
こういう決着は、個人的に好みではないが、
柚木の今の立場では限界なのかもしれない。
「誰も傷つかない」、優しい選択は、やはり、昭和のハードボイルドか…。
タイトルの「うしろから歩いてくる…」は、
誰の誰に対してのものなのか…。