戦後の混乱期、日米の文化戦争の発端は、ある古書店主の死だった…。門井慶喜さんの「定価のない本」を読む。
戦後の混乱期でありながら、人は情熱的であり、
気概を胸に秘めている。
踏みにじられて終わるだけの魂ではないという、
なんか、ワクワクするような作品だった。
古本街、神保町の成り立ちや、
出版社の歴史が垣間見えて、それだけで、
古本好きにはたまらない。
そして、活版の話。
ワタシは、昔、ロサンゼルスの薄汚れたビルにある
邦字新聞社に勤めていたが、
上のフロアでは、紙面の活版が組まれていた。
その香りが、脳裏によみがえり、
懐かしい気分にさせてくれた。
日本の歴史を、その精神を奪おうという、GHQの恐ろしい計画。
知らずにそれに加担して、日本を売り渡した主人公、琴岡庄治。
だが、やられっ放しにはしなかった。
蟷螂の斧がごとく、巨大な帝国に、
敗戦国の一古書店主が戦いを挑む。
同業者、芳松が本に圧しつぶされて死んでいた。
その死が、米国との文化戦争へと繋がっていく。
徳富蘇峰や、太宰治も登場人物として、粋な役割を果たす。
特に、太宰と庄治のやり取りが面白い。