違法捜査、プライバシー侵害、闇…、いろいろあるが、やはり熱い刑事モノだった!誉田哲也さんの「背中の蜘蛛」を読む。
この作家さんの警察小説としては、少々、異色か。
池袋の男性刺殺事件、新木場での爆殺傷事件、
二つの事案、それぞれ、容疑者が上がり、捜査は進むのだが、
この二つには、共通するモノがあった。
それは、「タレコミ」。
池袋の事件では、刑事課の本宮課長が、
上級幹部からの情報で密かに動き、容疑者を特定する。
だが、その情報の出所は秘匿され、
本宮は仕方なく、「タレコミ」があったとして、処理する。
そして、新木場の事件では、巻き添えをくった刑事、植木が、
同僚の刑事、佐古に掛かってきた、
容疑者を名指しする「タレコミ」に疑問をいだく。
情報は誰が、どこから、提供したのか。
違和感を感じていた本宮が、植木、佐古とともに、
「タレコミ」の元を追いかける。
作品の中盤まで、「タレコミ」にまつわる謎はあいまいにされ、
だが、不穏な空気だけを感じる。
その落ち着かない感覚に、初めはとまどいを覚えたが、
徐々に取り込まれていく。
そして、警察の闇の部署の登場。
携帯電話の追跡、盗聴、そうしたプライバシーの侵害にあたる
捜査を、プロジェクトとして推進する警察、いや、国家。
国家が個人を監視する時代はもう、前から始まっている。
防犯カメラのデータを捜査に利用するのは当たり前になり、
そして、個人を丸裸にするデータ追跡も、いつしか、当然のことと
受け入れられていく…。
仕方のないことと、諦め感も漂う中、
真っ暗な闇を内包した警察にあって、
「警察官の良心」ともいえる刑事たちの熱さが、
胸にしみる。
重いテーマが絡み合っているが、
これは、やはり、一人の男の人生と、
犯した罪と、彼が関わった人間たちを描いた
まっとうな警察小説だったとホッとし、
そして、十分堪能した。