コーダである主人公が手話通訳士として、ろう者の社会と、そして二つの殺人に関わっていく。丸山正樹さんの「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」を読む。
聴覚障がい者、そして、家族の中で唯一、聴者として
生まれた子ども、コーダ(Coda:Child Of Deaf Adults)としての
アイデンティティ。
ああ、こんなにも知らないことがあったんだと、
思わされた世界の物語。
私の母も身体障がい者ではあるが、
耳は聞こえ、目も見える。
障がい者とは言っても、実に、さまざまな世界があるとは、
頭ではわかっていても、なかなか、触れる機会はない。
だが、一つひとつの世界には、複雑な問題があり、
その問題が目の前に提示されるたびに驚き、
そして考えさせられる。
この作品は、そうした世界を紹介するノンフィクションではない。
特殊な舞台の上で繰り広げられるミステリーである。
元警察行政職員であった、主人公の荒井が、
手話通訳士の資格を取得し、ろう者たちと出会い、
警察職員時代に関わった殺人と、現在の殺人事件の真相に迫っていく。
荒井は、コーダとして、長い間、屈託や苦悩を抱えて生きているのだが、
事件との関わりは、自身がその屈託に決着を付ける、きっかけにもなる。
そして、事件を追う中での何森刑事との出会い。
荒井もそうだが、この何森という刑事も、
取り扱いが難しそうなキャラで、
二人からは同じような匂いがする。
この二人の魅力にやられる、というところまでは、まだ行かないが、
続編が出ているということだから、
続けて読むうちに、はまっていくのかもしれない。