霊、憑依を、脳科学の力でねじ伏せる…、中井拓志さんの「ゴースタイズ・ゲート「イナイイナイの左腕」事件」を読む。
わけの分からない物語…。
だが、訳が分からない感覚をねじ伏せながら、
それでも、読まされてしまった。
大脳辺縁系、海馬、側頭連合野、前頭前野、脳梁障害、
半側無視、エイリアンハンド…、
脳にまつわる部位や事象が、次から次へと繰り出される。
長く続く、脳機能の説明というか、推理に、
興味を持てるかどうかが、分かれ道か。
科警研に設けられた心理三室。
メンバーは、主任研究員の三島夕季と、
設備担当の井ノ頭康太の二人。
彼らが、脳科学を駆使して、憑き物、心霊現象といった、
得体のしれない異常現象を、解き明かしていく。
近頃、霊や妖怪がふんだんに登場するミステリーというか、
ライトホラーが目立つ。
その中では、少々、異質の設定だ。
科学で、憑き物という謎を解明するものの、
最後には、それでも腑に落ちない、どうも座りの悪い、
「モノ」が残される。
そして、もう一人、訳の分からない登場人物が、
「霊能者」の白石芙癸である。
芙癸にナニモノかが憑依し、その時の、彼女の脳データを採集、
夕季たちは、そのデータから、「憑き物」の正体を見極めようとする。
芙癸と夕季の関係が、少しずつ明かされるのだが、
まだまだ謎の部分が多く、
また、その関係も、異常ともいえるもので、
夕季自身の心模様がつかめない。
夕季の身に起こり、芙癸との関係のきっかけともなった
五年前の「事件」のせいなのか、
彼女は、周囲にカベをはりめぐらし、
誰をも、それは読者でさえも、立ち入らせない感じがする。
そして、この作品では、
「事件」の詳細は語られない。
だからこそ、気持ちが宙ぶらりんで、
主人公である夕季に感情移入できない理由に
なっているのかもしれない。
町田市にあるアパートの一室で、
男性の他殺体が発見される。
死因は失血死、喉を素手でえぐり取られていた。
室内は荒れており、かなり争ったとみられるが、
現場に残された血液、肉片など、被害者以外のものは
検出されなかった。
見えざる犯人…、捜査は行き詰まり、
事件は、秘密裡に、心理三室に持ち込まれる。
そして、事件は、ある村に残された逸話に繋がっていく…。