唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

爆弾は、東京中に仕掛けられた…?「スズキ」に翻弄される捜査官。彼の正体を掴み、爆発を食い止められるのか。

 

爆弾

爆弾

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凄い物語だった。

 

「スズキタゴサク」とは、一体、何者なのか。

最後まで、その正体は明らかにされなかったのだが。

 

彼は、人間の「悪」を具現するものなのか。

それとも、「正」をひた隠しにしているだけなのか。

 

そもそも、「正」や「悪」は、どこにあるのか、

いや、どこにもないのか。

一人ひとりの中にある、「正」や「悪」は同じではないのか。

 

簡単に答えが出ない、問いの堂々巡り。

 

見た目、とぼけた印象の中年男が、些細な傷害事件で

野方署に連行された。

 

彼は「スズキタゴサク」と名乗り、

取調室で、秋葉原で爆発があるという「予言」をする。

 

直後、実際に秋葉原の廃ビルで爆発があり、

捜査陣は、色めきだつ。

 

スズキはさらに、言う。

「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。

 

何時、どこで。

言葉遊びとも思われるヒントの繰り返し。

長々と続く、彼のおしゃべり。

その中から、正解にたどり着く手がかりは掴めるのか。

 

取調室で繰り広げられる、捜査員、清宮とスズキとの

息詰まる心理戦。

 

そして、取り調べを受け継いだ類家は、

スズキの仮面をはぐことができるのか。

 

妬み、怨み、疎外、諦め、そして殺意。

人の心に巣食う負の感情が、真っ黒な塊になったとき、

誰もが、「すべてをぶっ壊したくなる」のだろうか。

 

誰の心にも、「全部、ぶっ壊れちまぇ」という思いがあったとしても、

「世の中を壊すなんて誰でもできる…

壊すのを、食い止める方がはるかに難しい。…

難しいほうが、ゲームとしてやりがいがあるだろ?」という

類家の言葉、たとえ、スズキを挑発する言葉であったとしても、

それに救われるような気もする。

 

スズキの正体が分からない限り、スズキは増殖していく…。

 

 

 

「ごぶさたぁ~、元気だったぁ?」。変わらぬ町、変わらぬ家族の風景がまた、戻って来た。小路幸也さんの「ハロー・グッドバイ 東京バンドワゴン」を読む。

 

 

「東京バンドワゴン」シリーズの十七作目。

 

これくらい続くと、大きな変化が無くても、

取り立てて事件が起こらなくても、

読めてしまう。

息の長いシリーズの強みか。

 

このシリーズに触れると、

昭和の香り、いや、それよりもずっと前の香りさえ感じる。

 

家や町のたたずまいばかりでなく、

この家族の、筋を通す生き方、暮らし方が、

昭和生まれには、原風景を見せてもらっているような気になる。

懐かしく、そして切ない。

 

季節ごとの行事がきちんと描かれていくのも、

楽しいし、嬉しい。

師走、正月、節分…、

父母や祖父母の居た風景が蘇る。

 

相変わらず、悪意のかけらも見当たらない。

初期の頃は、多少の悪意がもたらした事件なども

あったような気がするが…。

 

ぬるい、と言ってしまえばそれまでで、

このぬるさは安心で、とっぷり首までつかりたい。

 

変わらないと言っても、小さな変化はあるようで。

 

次の作品では、藍子、マードック夫婦が帰ってきているかもしれない。

彼らが戻って、また、元の家族の物語が始まるのだろう。

楽しみだ。

 

 

 

「のっぽのバンビ」が、犯人の巧緻な計画を崩す。女刑事、花房京子の犯人の追い詰め方は。香納諒一さんの「逆転のアリバイ 刑事花房京子」を読む。

 

 

「花房京子」シリーズの二作目。

 

このシリーズは、初めから犯人がわかっている

倒叙形式が採られている。

 

この形式は、古くは「刑事コロンボ」、そして、

国内ミステリーでは「福家警部補」など、

数多くの作品で見られる。

 

犯人の視点で物語は進むことが多いので、

思い入れは犯人側に傾くこともある。

 

通常は、真犯人は、アイツかコイツか、

動機は、殺害方法は、、、など、

刑事たちの捜査と共に、読者も、ヒリヒリする。

 

それとは異なり、

刑事たちが、犯人を追い詰めていく

その緊張感が重要だ。

 

主人公の花房京子は、警視庁捜査一課の女性刑事。

だが、なぜだか、いつも一人で行動する。

作品では、所轄の刑事たちが補佐役になるのだが。

 

ま、大体、そういう刑事は、洞察力に優れた凄腕なのだろう。

そして、どこかしら歪んでいて、変わり者という設定が多い。

 

花房は、「のっぽのバンビ」というあだ名で呼ばれ、

それほど、厭われている感じはしない。

 

所轄の刑事たちも、花房の筋読みなどに、初めはとまどうが、

反発するほどでもない。

 

下手な軋轢もなく、そういう意味では、読みやすい。

 

ただ、彼女の人間性というか、性格というか、

どんな人物なのか、深いところはなかなかわからない。

 

倒叙ミステリーのせいか、

あまり、彼女の視点では描かれないからかもしれない。

 

「アーモンド型の目」という描写で、

どちらかというと、可愛らしく柔らかい外見の雰囲気が特に印象に残り、

緊張感はそれほどなかったような…。

 

犯人の動機も、それほどの悪意が感じられず。

 

ここのところ、キャラ立ちする女性のストーリーばかり

読んでいるせいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

江戸庶民の暮らしを支える火消。「一人も死なせるな」、ぼろを纏った男たちの物語が熱い。今村翔吾さんの「羽州ぼろ鳶組」シリーズを読む。

 

 

 

今、はまりつつある物語がある。

 

これまで楽しんだ時代小説も、捕物一辺倒だったが、

江戸の火消し、このシリーズは面白い。

 

これまでは、捕物帳の中に登場する町火消くらいしか知らなかったが、

武家火消というものが新鮮で、これほどワクワクする世界に

これまで触れてこなかったのが、惜しいくらい。

 

人の生き方、男の生きざま。

武骨だが、真っ正直で、真正面からぶつかっていく、

その熱い心が直で伝わってくる。

 

男くさい、男ばかりの物語の中に、

加賀鳶の娘や、火災に巻き込まれたお七、

そして、主人公である、「ぼろ鳶組」の頭、

松永源吾の妻、深雪といった女性が、色を添える。

 

特に、深雪のキャラは、実にいい。

誰もが、惚れ込む、主人公以上の働きだ。

 

もちろん、源吾を始めとする、ぼろ鳶組の仲間たちのキャラも秀逸。

一人ひとり個性が際立ち、もはや誰一人欠けても、作品は成立しない。

 

シリーズの作品はかなり出ているので、

当分、楽しめそうだ。

 

 

シリーズ第3弾の剣持は、眠らない。町弁の業務を引き継ぎ、夜の都会を走り回る。新川帆立さんの「剣持麗子のワンナイト推理」を読む。

 

 

「剣持麗子」シリーズの第三弾。

 

やっぱり、「いい人」じゃん、と思う。

 

そして、故村山弁護士の業務を引き継いだり、

クライアントの犬の面倒をみたり、

また、別の件で、クライアントの家の床下に

もぐりこまされたり、と、

一体、何やってんの、結構、お人好しなんだ、とも思う。

ま、大山淳子さんが描くところの、猫弁ほどのお人好しではないが。

 

だが、そういう受け取り方は、間違っているというか、

剣持に失礼なのか。

 

作品の中で剣持も言う。

「他人に何が分かるというのだ」と。

 

人間は、そもそも多面なのだ。

善いことをしながら、悪いことをする。

その反対も、またしかり。

 

剣持も、幾つもの顔を持っている。

だから、「お人好し」の面が出てきても、

別に驚くことはない。

 

この作品が、第一作より好きだなぁと思うのは、

新しく登場する警官、橘がなかなかのぶっ飛びキャラだからだ。

 

第一作目では、剣持のキャラに圧倒されたが、

今作は、キャラの面では、剣持も橘に食われている。

だからか、剣持がかなりまともに見える。

 

今回は、眠らない街、新宿を舞台に、

まあ、眠らずに動き回るタフな剣持が見られる。

 

黒丑の背後にあるものにしても、

謎は解明されているわけではないから、

また、同じ人物たちの活躍が見られるのだろうと、

期待度は、ぐんぐん上がる。

 

 

 

お金至上の凄腕弁護士、剣持が、成功報酬・百数十億につられ、元彼の遺産相続をめぐる謎に挑む。新川帆立さんの「元彼の遺言状」を読む。

 

 

TVドラマ化されると聞いて、

慌てて読んでみた。

 

濃厚なキャラの主人公、剣持麗子。

鼻っ柱の強さ、お金に対するスタンス、

相手が誰であろうと、行くときは行く押しの強さ、

こういう強めのキャラを持つ女性、

最近読んだ作品も登場したな~と思いながら。

キャラの強い女性が世の中に受け入れられてきたんだなと、シミジミ。

 

自分の性格の強さが分かっていそうな言動を見せながらも、

「いい人」ぶらない、潔さは、反対に気持ちがいいほど。

 

キャラの強さ、濃さが目立つけど、

死亡した、剣持の元彼の遺言が、

「自分を殺した犯人に全財産を譲る」という、

なかなかの面白い設定から入り、読まされてしまった。

 

ドラマも始まり、第一話目で、結構、ストーリーが進んでいて、

これから、どう引っ張っていくんだろうと、余計な心配をしたが、

ドラマと原作が別物であるのは定石だから、

きっと、原作とは違うストーリーが展開されるのだろう。

原作とは違って、篠田も単なるクライアント以上の

大きな役割を果たしそうだし。

 

 

ゾンビ、予言者、と来て、新たな敵は、巨人!剣崎比留子の推理は通用する?葉村は、ワトソンの使命を果たせるのか。今村昌弘さんの「兇人邸の殺人」を読む。

 

 

「剣崎比留子」シリーズの三作目。

 

クローズドサークルを扱ったミステリーだが。

 

少々、異質だと思うのは、

シリーズの軸が、超人研究を行う班目機関の解明を

目的としているためか、

ゾンビだの、予知だの、超人だのといった異世界が登場すること、

そして、剣崎と葉村の関係性に、何か落ち着かない空気感があること。

 

二人の、相手に対する想いが、

関係をいっそう、複雑にしている。

 

お互いの「ホームズ」であることと、

「ワトソン」であること。

それに、こだわり過ぎる感があって、まるで、共依存だ。

 

この二人の「想い」が、謎の解明に、

これ以上影響しなきゃいいけどねと、

余計な心配をしてしまった…。