唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

長崎尚志さんの「邪馬台国と黄泉の森」を読む。

個性丸出しのマンガ編集者、醍醐真司が卓越した知識を披露しながら謎の解明に奔走する。特異なマンガの世界と現実世界の橋渡しとなる「名探偵」の才能は興味深い。

 

博覧強記のマンガ編集者、醍醐真司を主人公とした

四作の連作短編もの。

 

一話完結ものなのだが、全体として

一つの長編物を読んでいるような気になる。

 

失踪したホラーマンガ家の行方を探す第一話。

そして、かつて「女帝」と呼ばれたマンガ家を、醍醐が

編集者として復活させる第二話。

 

この二話では、マンガ家の新作に、

邪馬台国と卑弥呼をテーマとしてとりあげるのだが、

博覧強記というキャッチフレーズにふさわしく

醍醐が持論を繰り広げる。

 

また、映画館での醍醐と親子の奇妙な出会いを描いた

第三話。

 

そして、四話では、一話に登場したマンガ家の子ども時代の

トラウマが解き明かされる。

 

博覧強記の編集者というので、うっとうしい人種と想定したのだが、

どちらかというと、バランスの取れた人物像で、良い意味の裏切りだった。

 

そもそも編集者は、厄介な作家を操らなければならないのだから、

バランス感覚は優れているのだろう。

 

二話の邪馬台国にしろ、三話の映画話にしろ、

怒涛の情報量で、殆どついていけなかったが、

その蘊蓄を読んでいるだけでも面白かった。

 

ただ、四話の中で、「悪行」を情状酌量して、

見て見ぬふりをしたほうがいいのかと迷う醍醐に対し、

現代でマンガがメジャーになった理由を語った作家の

「悪は悪。善は善。そこの基準だけは曲げなかった作品が

多かったから。」そして、

「どんなに悲しいことになるか分かっていても心を鬼にして

悪は悪と言い切る…それが、マンガを生む人間のつとめだ」

という言葉が心に残る。

 

複雑であいまいな構図もあってしかるべきなのだが、

やはり、エンタメ作品は、「正義を貫き、正義が勝つ」という

わかりやすいものがいいなと思うのだ。

 

 

邪馬台国と黄泉の森―醍醐真司の博覧推理ファイル―(新潮文庫)

邪馬台国と黄泉の森―醍醐真司の博覧推理ファイル―(新潮文庫)