伊岡瞬さんの「瑠璃の雫」を読む。
父は失踪。母はアル中。幼い弟に殺意を抱く小学生の美緒。過去に娘を誘拐され、未解決のまま年を重ねた元検事、永瀬。心に大きな傷を抱える二人が出会う。
父親は家族を捨て失踪。
母親はアル中で入退院を繰り返す。
幼い弟、充と、小学六年生の杉原美緒の唯一の味方は、
母の従妹である薫。
さらに、一番下に穣という弟がいたのだが、
生後十か月で窒息死している。
窒息死させたのは充だと、母はほのめかす。
美緒自身も、明るく、弟の面倒を見る健気な少女、
というわけではなく、心を閉ざし、かたくなだ。
充を鬱陶しく思い、時には殺意まで抱く。
黒い思いに押しつぶされそうになると、
傷だらけになるほど、指を噛み続ける。
そんな毎日を続ける中、薫の知り合いである
初老の元検事、永瀬丈太郎と出会う。
永瀬は検事時代、娘の瑠璃を誘拐されるという
過去を持っていた。
その誘拐事件は解決には至っておらず、
娘の行方も不明のままだった。
物語は3部構成になっているのだが、
小学生の美緒が永瀬と出会い、
少しずつ心を開いていくまでを描いた1部は、
美緒の追い詰められていく心が辛く、
読み進めるのにも気力がいった。
2部では、永瀬の娘の誘拐事件が詳しく語られ、
そして3部では、成長した美緒が、
誘拐事件や自らの過去をたどり、すべての謎を明らかにする。
謎は明かされても、失ったものは戻るはずがない。
「害を加えられた者は、加えた者を赦せるのか」。
赦すのか、それとも、捨て去るのか。
明日を生きていくために、人ができることは…。
立ち止まって考えてしまうほど重いストーリーだが、
結末は、明日へ顔を向ける美緒が描かれ、
心が少しだけ軽くなる。