近藤史恵さんの「わたしの本の空白は」を読む。
ある意味、恐ろしい物語だ。
目覚めると、そこは見知らぬ病室。
主人公、三笠南は、記憶をなくしていた。
そして、夫だという男が病室を訪れる。
夫に連れられて戻った家では、義母、義姉が、
思わせぶりな態度をとる。
誰も信じられないなかで、妹の存在だけが
南を支えてくれる。
そして、夢の中に出てくる男。
本当に愛しているのは、この男なのではないのか。
南の絶望感は、日に日に増していく…。
記憶喪失という、確かなものが一つもない状況では、
始めから終わりまで、不安な感覚に囚われ、
落ち着かない。
男と女の愛は、そもそも幻のようなものかもしれない。
記憶があろうと無かろうと、心もとなく、
不確かで、愛する心も愛される感覚も、
消えてしまえば、なかったことと同じだ。