唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

宮部みゆきさんの「この世の春 上下」を読む。

この作品は、一編の壮大な冒険物語である。

 

大きな謎を解くために、石野織部、各務多紀、

田島半十郎、白田医師らが一つのチームとなり、

励まし、助け合う。

 

「闇を覗き込むと、闇に見つめ返される」という。

 

闇を直視してはいけない。

 

だが、この者たちは、前藩主、重興のために、

重興を救おうと、命を賭して闇と対決する。

 

多重人格のテーマを時代小説で取り上げた作品には

初めて出会った。

実に新鮮だった。

 

重興を呑み込んだ闇の深さ、

彼を取り巻く人々の驚き、嘆きを

幅広く、分厚く、見事に描き切っている。

 

謎は複雑化しているが、

闇と戦う仲間たちという図式は実にシンプルで、

心にすっと入り込む。

 

そして、その仲間は誰しもが、

まっすぐで素直、すがすがしく温かい。

 

だからこそ、どんなおどろおどろしい状況でも、

安心して読んでいける。

 

ただ一つだけ。

 

重興を呑み込んだ真っ暗な闇を作り出した動機が、

その闇の深さにしては、少々弱いような気がするのだが。

 

父親が急逝し、その跡を継いで北見藩藩主となった重興は、

五年後、突如、病気を理由に「主君押込」を受け、強制隠居させられた。

病気とは表向きの理由で、実は不可解な言動が目立ち、

これ以上藩政を任せられるような状態ではないと判断され、

北見藩の別邸、五香苑に幽閉される。

 

快活で聡明だった重興を知る人々は、その処遇に驚き、悲しむ。

五香苑の館守という任についた元江戸家老の石野織部もその一人だった。

 

重興の不可解な言動とは。

彼を変えてしまったものは、一体なにか。

 

北見藩作事方、各務数右衛門の娘、多紀も

父が亡くなった後、重興の世話係として五香苑へ呼ばれる。

さらに、重興の治療を務める白田登が、

多紀の「用心棒」として、多紀の従弟の半十郎が、

重興を支え、守り、救おうとする人々が

徐々に五香苑に集まる。

 

 

この世の春 上

この世の春 上

 
この世の春 下

この世の春 下