唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

目の見えない恐怖と、真実に向かい合う恐怖…。下村敦史さんの「闇に香る嘘」を読む。

 

闇に香る嘘 (講談社文庫)

闇に香る嘘 (講談社文庫)

 

 

この作家さんは、「緑の窓口~樹木トラブル解決します~」から入った。

どちらかというと、ハートフルミステリーだったので、

今回の重厚でスリリングな作品に、少々度肝を抜かれた。

 

また、「難民捜査官」を読んだが、引き出しの多い作家さんだという

印象が強い。

 

主人公は、全盲の初老の男性、村上和久。

四十一歳で失明したため、日常生活を送られるようになるまで、

苦難の連続だった。

 

さらに、孫の夏帆は腎臓病で、透析を強いられる日々。

移植が必要だが、和久の腎臓は数値が悪く、移植は無理だと告げられる。

 

和久は、満州で次男として生まれた。

第二次大戦で逃げまどう中、兄の竜彦とは離れ離れになってしまう。

 

戦後、母と和久は日本へ帰国できたが、

兄は残留孤児として四十年間、中国で暮らし、その後、

永住帰国がかなった。

 

実家の岩手で母と暮らす竜彦に腎臓の提供を頼むのだが、

兄は、検査を受けることさえ拒否する。

 

頑なに拒絶する兄に、和久はふと、疑惑を抱く。

兄は、本当の兄なのだろうか、と。

 

疑惑を抱いた日から、和久は兄の言動すべてに対し

疑心暗鬼に取りつかれ、真実を知ろうと、

満州時代の知り合いを訪ね歩く。

 

視覚にハンデをおった人が、

一度、疑心暗鬼に陥ったら。

それは、どれほどの苦しみか。

 

周囲を信頼することで、日常が成り立っているはずなのに。

闇の中で、何もかも、疑わざるをえないとしたら…。

毎日が、ものすごい恐怖に晒されるのではないか。

 

和久の感じる恐怖が、ページから立ち上り、

読むワタシも息苦しくなる。

 

知らなくてもいい真実があるのではないか、

目が見えないという物理的な恐怖とともに、

主人公の前に立ちはだかる。

 

でも、疑心暗鬼の中じゃ、

生きていけないんだろうなぁ、きっと。