この刑事、これからの選択は…?馳星周さんの「帰らずの海」を読む。
異動で故郷の函館に戻った、刑事、田原稔。
着任早々、殺人事件が起こるのだが、
被害者は元の恋人、水野恵美だった。
田原は恵美と別れ、函館を出てから二十年、
彼女とは会っていなかった。
どうやら、田原は恵美と秘密を共有していたようなのだが、
その秘密は容易に明かされない。
だが、それが事件の核となりそうで、
田原の一挙一動がスリリングではある。
事件の真相につながりそうな秘密を抱え、
それをぼかしたまま、探偵役が真相を追う姿は、
かゆいところに手が届きそうで届かない、
そんなもどかしさを覚える。
だが、秘密の一端に少しでも触れたくて、
先へ先へと、ページを繰る。
後半に入り、ああ、真相は多分、そういうことなんだろうなぁと、
思い至ったとき、暗い結末が見えた気がした。
決して幸せとは言えなかった故郷での日々、
若すぎた二人が、過酷な運命に逆らえるはずもなく…。
稚拙な愛といってしまえば、その通りで…。
この作品もジャンルはノワールなのだろうが、
田原が持つ純粋さが、ノワールと言い切れないような気もする。
だが、田原はこれから、どう選択するのだろうか…。