唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

「卵」から、「ひよっこ」へ…。内藤了さんの「COVER 東京駅おもてうら交番」を読む。

 

COVER 東京駅おもてうら交番・堀北恵平 (角川ホラー文庫)

COVER 東京駅おもてうら交番・堀北恵平 (角川ホラー文庫)

 

 

 

東京駅おもて交番で、地域課研修を終えた恵平(ケッペー)、

現在は鑑識課で研修中。

 

東京駅近くのホテルの一室で女性の惨殺死体が見つかる。

遺体から両胸がえぐり取られた凄惨な現場だった。

 

警官未満のケッペー、社会人としても新米で、

すぐに能力を発揮したり、鋭い推理を披露するなどということが

できるわけもなく。

 

だが、犯人の悪意に打ちのめされたり、

涙を流したり、心の中で葛藤しながら、

懸命に目の前の仕事に食らいついていく。

 

コンビとして描かれる、捜査一課では新米刑事の

平野腎臓も、被害者、そしてその人生に誠実に向き合い、

犯人への憤りをたぎらせる。

 

昭和三十年代の交番が現れたり、

何十年も前に亡くなった人に出会えたり…、

読んでいると、東京駅というところ、

そんな不可解なことが起こりそうな気がしてくる。

 

東京駅に限らず、古い駅というのは、

どこかへの入り口なのかもしれない。

 

人がやって来ては去り、また、新しい人がやってくる。

見知らぬ人間同士がすれ違い、いや、人生が’交叉する瞬間がある。

人の様々な想いが積み重なり、

何が起きても、何が存在しても、決して不思議ではないところ。

 

今のケッペーは、捜査の主流に居ることはない。

そんなケッペーには、様々な味方がいる。

この作家さんの作品には、魅力的で、興味深い人物が

数多く登場してくる。

 

このシリーズでも、平野はもちろん、

うら交番の柏村、東京駅に住むメリーさん、

焼き鳥屋の大将、ダミさん、そして、

鑑識課の仲間の桃田や、伊藤、さらに、さらに、

平野の先輩刑事、竹田。

 

その仲間の一人の、思いがけない活躍は、

何とも、胸のすくカッコよさだった。

 

事件のおぞましさとは対象的に、

ケッペーを取り囲む仲間の想いがとても温かく、

ストレートに心に入ってくる。

 

捜査官というのは、どうしても事件の悪意を覗き込む機会が多くなる。

「闇をのぞく者は、闇からのぞかれる」と言われるように、

悪意に取り込まれそうになる捜査官を踏みとどまらせるのは、

仲間の想いなのかもしれない。

 

仲間と言えば、冒頭の方で、「比奈子」シリーズの

月岡と三木が登場したのには、

オッとびっくり、そして嬉しかった。

 

ところで、今回も思う。

恵平や腎臓なんて名前つけられ、

思いっきり、からかわれたんじゃないかと、

気になる…。