唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

膨大な知識量に圧倒される。芸術探偵、瞬一郎がパリで遭遇した事件とは…。深水黎一郎さんの「花窗玻璃 シャガールの黙示」を読む。

 

花窗玻璃 シャガールの黙示 (講談社ノベルス)

花窗玻璃 シャガールの黙示 (講談社ノベルス)

 

 

 

海埜と、そしてその甥である瞬一郎。

 

この二人のやり取りは、相変わらず、絶妙であり、

このやり取りを読むだけでも楽しい。

 

天才的頭脳を持ち、行動はこれ以上ないくらい自由人である

瞬一郎、そしてまじめで実直な海埜、

性格はバラバラ、噛み合わなさそうな二人で、

時には瞬一郎にやり込められている海埜叔父。

 

だが、瞬一郎を拒まず、理解しようと寄り添っていく海埜叔父の

包容力があってこその二人の関係、なのかもしれない。

 

瞬一郎が放浪時代、フランスのランスで遭遇した事件を

手記にした物語。

 

ランスの大聖堂で、半年を隔てて起こった二つ転落死の謎を、

瞬一郎が解明する。

 

手記は、瞬一郎があえて挑戦したという、

カタカナ表記となる言葉をすべて漢字で表す試みがとられている。

 

この手法はとても興味深い。

(ルビのおかげで読み進めていけるが、

これがなかったら、途中で放り出しているかも…)

 

だが、フランスの歴史に始まって、

芸術史、建築史…、さらには日本語のルビにいたるまでの

素晴らしい造詣。

圧倒的な情報量で、ついていくのが精いっぱい、

いや、いつのまにか、おいていかれている。

ミステリーはいつ始まるのか、と思うほどの、知識の氾濫だ。

 

この作品の瞬一郎は、まあ、よくしゃべる。

 

一つの会話が一行か、そこらでぶちぶちと切れる今の小説と比べ、

話始めると、見開き二ページはゆうに埋まっている。

 

芸術、美術、建築、どれをとっても、知識量の少ないワタシには、

少々荷が重かったが、それでも謎の魅力に引っ張られ、

結末に到達することができた。

 

若さをとうの昔に手放したワタシには、

瞬一郎の、才気ばしった鋭さより、

海埜の、茫洋としているようで、ちらちらと現れてくる鋭さの方が、

しっくりくる。

 

タイトルの「花窗玻璃(はなまどはり)」とは、

ステンドグラスのことだそうだ。

実に、美しい日本語ではないか。