唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

立ち止まっていた心が動き出す…、きっかけは、祖母から頼まれた、歌舞伎を観劇するというバイトだった。近藤史恵さんの「歌舞伎座の怪紳士」を読む。

 

歌舞伎座の怪紳士 (文芸書)

歌舞伎座の怪紳士 (文芸書)

  • 作者:近藤史恵
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 単行本
 

 

 

心に傷を負い、立ち直ることもままならない主人公が、

あることをきっかけに、顔を上げ、前へ向いて歩くことができるようになる。

 

いわゆる、再生の物語。

再生の物語は心地よい。

 

この作家さんの、主人公に向ける

温かな視線も、心地よい。

 

ある程度の年月を生きてきた大人たちは、

何かしらの屈託や、傷を抱えている。

 

知らない間に、その傷が大きくなり、

足が一歩も前に出なくなる時が来るのかもしれない。

 

そんな場合の、再生の物語は、

自分さえその気になれば、

人は再生できることを、気づかせてくれるから。

 

久澄は、勤めていた会社で強烈なパワハラを受け、その結果パニック障害を患う。

引きこもり状態を続けては’いたが、先のことを考え、

悶々とした日々を送っていた。

 

そんな時、歌舞伎の代理観劇のアルバイトを祖母から頼まれる。

 

恐る恐る出かけて行った久澄は、歌舞伎の楽しさを知ることになる。

 

その後も、祖母からの、歌舞伎やオペラの鑑賞アルバイトは続く。

行く先々で、トラブルや事件に遭遇するのだが、必ずと言っていいほど、

姿を現す謎の紳士に助けられたり、助言を受けたりしながら、

決着を付けていく。

 

作品中に歌舞伎の演目やオペラに関する、もう一つの物語も、

面白い。

先日読んだ、本をめぐる物語もそうだが、

別の作品の紹介や解説が、作品本体を邪魔せず、

スッと差し込まれているものは、得した気分になる。

 

怪紳士にも、物語があり、それに連なる、

結末の余韻は、心にしみる…。