唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

今度は、公安に追っかけられる、修司、鑓水、相馬の三人。スクランブル交差点で死んだ老人の行動の意味は…。太田愛さんの「天上の葦」を読む。

 

天上の葦【上下 合本版】 (角川文庫)

天上の葦【上下 合本版】 (角川文庫)

  • 作者:太田 愛
  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: Kindle版
 

 

 

修司、鑓水、相馬シリーズの三作目。

 

このシリーズの醍醐味は、「追っかけっこ」だ。

警察、殺し屋、公安といったものから、逃げて、逃げて、逃げまくる。

だが、ただ、逃げてばかりではない。

逃げながら、相手に反撃を繰り出す。

 

その反撃が決まったとき、傍で見ている者は、スカッとする。

 

だが、これまでの二作では、その反撃が本当に決まったのかは、

わからない。

 

いや、相手に痛手を負わせることができたかは…。

 

そして、今回も、国家の中枢、あるいはその近くにいる人物が

登場してきたことで、ああ、今回もまた、反撃は空振りするのかと、思った…。

 

企業のスキャンダル、そして隠蔽、冤罪といった大きなテーマを突き付けてくる

このシリーズ。今回は、報道への政治の介入という、これも大きく重い。

 

現代の報道の危機が、太平洋戦争へと繋がっていく。

戦時中の「言論統制」が、まるで亡霊のように、現代社会によみがえる。

報道にも「忖度」があるのか。

本当の’ことが言えない社会、そして、本当のことが伝えられない社会。

 

それは、七十年ほど前も、今も同じなのかもしれない。

例えば、COVID-19、私たち市民に、本当のことが伝えられてないとしたら…。

 

修司、鑓水、相馬、この三人は、いつも、重いテーマのナビゲーター役だ。

だが今回は、時をさかのぼる旅の中で、鑓水の出生が明らかにされる。

 

心の奥の、柔らかく、傷を受けやすいところに、鑓水も傷を負っており、

それを、キャラの軽さで、覆い隠して来たんだなと、切なくなり、

そんな彼を見守る、修司、相馬の人としての優しさがどうしようもなく、

心に染み入る。

 

三人の物語、もっともっと、読みたいです。

 

渋谷、スクランブル交差点の真ん中で、

一人の老人が立ち止まり、天を指さし、そして死んだ。

老人の指さしたものは何だったのか、その意味を探るよう、

あの磯部から鑓水のところに依頼が届く。

 

その頃、相馬は、失踪した公安の捜査員の行方を突き止めるよう、

命じられていた。

 

この二つの調査が、一点に集約していく。