三十年以上前の冤罪事件、二十三年前の夏の失踪、そして現在の少女失踪が結びついたとき…。太田愛さんの「幻夏」を読む。
修司、鑓水、相馬に、また、どうしても会いたくなって。
事件の様相が二転、三転する様は、前作と同様。
次に何が来るかと思う分、楽しみが倍増する。
人生は、時として、他人の思惑で大きくねじ曲がる。
無辜の人がある日突然、身に覚えのない罪に問われ、
抗う気力を奪われ、人間性も、人生も滅茶苦茶にされる。
今回も、普通に生きている人が理不尽な目にあい、
その波紋が広がり、事件へと繋がっていく。
その波紋は、理不尽という渦に巻き込まれた者にとって、
あまりにも過酷で、踏みにじられた人々の無念さが伝わり、
胸が苦しくなってくる。
起きてしまった事件は取り返しがつかないが、
これから起ころうとしているまがまがしい出来事を、
修司、鑓水、相馬の三人が、体当たりで防ぎに行く。
前回の事件の後、鑓水は探偵事務所を開き、
仕事をなくした修司は、鑓水の助手となり、
相馬は、交通課に左遷させられた。
世田谷で発生した、少女失踪事件の捜査に応援で
駆り出された相馬は、失踪現場で奇妙な印を見つけるのだが、
それは、見覚えのあるものだった…。
二十三年前の夏、幼かった相馬は、ある兄弟と仲良くなる。
が、その夏の終わり、兄の方が失踪し、その現場に残された印と
同じものだったのだ。
少女失踪事件が、二十三年前の失踪に結びついていく…。
一人の男がやっていない事件の自白を強要され、有罪判決を受ける。
その自白は、捜査員が書いたシナリオだった。
鑓水らが動き回るに従い、冤罪事件の過酷さが浮き彫りになってくる。
司法の在り方が、法の精神とはまったく逆の方向に走りだすとき、
巻き込まれた人は、ただ、踏みつけられるだけという、
実に恐ろしい社会に生きている。
事件の闇に隠れた者たちに向かって、
修司、鑓水、相馬は反撃を始めるのだが、
その反撃は、しっかり相手に当たるのだろうか。
相手に、痛手を負わせるくらいの…。