唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

大山淳子さんの「猫弁と指輪物語」を読む。

無類のお人好し、心優しき猫専門弁護士「猫弁」こと百瀬太郎が受けた依頼は、

鍵のかかった部屋で妊娠していた猫のお相手探し。

7歳の誕生日、施設に太郎を預け失踪した母の教えを守って、猫弁は今日も空を見上げる。

 

サスペンスやハードボイルドを立て続けに読んだ後は、
優しく癒してくれるミステリーを読みたくなる。

サスペンスものは、スピーディーでギョッとするような
展開の連続で、どうしても心が緊張してしまうから。

リハビリめいた時間を過ごすのにぴったりの作品。

「猫弁」シリーズの3作目。

1作目から心をわしづかみにされた。いや、「わしづかみ」という
表現では乱暴すぎる。

ふんわりと柔らかいものでくるまれ、ほっこりしてくる。
ほっこりばかりでなく、シミジミと、そして切ない。

普通に生きる人の普通の喜びや悲しみが
ストレートに胸に響く。

で、主人公の猫弁は、あまり普通とはいえない。
優秀な頭脳を持ちながら、
超がつくようなお人好しで、純粋なので、
端からみれば、超級の変わり者ということになる。

大家の梅園さんが、4作目の「猫弁と少女探偵」で
猫弁を端的に言い表している。

「百瀬太郎はまっとうな人物である。しかしそのまっとうさは
尋常でなく、ひたすら抜本的に力いっぱい
まっとうであるがため、まっとうでない現代社会では、
ひどくいびつに見えるのだ」と。

そのまっとうさで、周囲の人間はたまに傷つき、
相対することを恐れる。

せっかく婚約を交わした大福亜子との仲も、
なかなか進展しない。
というか、変わり者と婚約するのだから、
亜子も少々ズレていて、この二人のことは、
周りのヤキモキのタネだ。

「万事休すの時は上を見なさい。すると脳が
うしろにかたよって、頭蓋骨と前頭葉の間に
すきまができる。そのすきまから新しい
アイデアが浮かぶのよ」。

子どもの頃、猫弁にそう教えた母親は
どこにいるのか。

その秘密が解き明かされる時は、そう遠くなさそうだ。

 

猫弁と指輪物語 (講談社文庫)

猫弁と指輪物語 (講談社文庫)