柴田よしきさんの「観覧車」を読む。
結婚して一年、夫が姿を消した。その帰りを信じて、
探偵だった夫の後を継いだ下澤唯。夫を待つ唯が遭遇する、
さまざまな男女の切ない恋愛模様。
愛しい人が突然、目の前からいなくなっとしたら…。
ただただ、待ち続けるだろうか。それとも、
いい加減のところで諦め、人生を切り替えて
生きていくのだろうか。
唯は待つことを選んだ。
それは、今でも彼を愛しているから。
夫の居場所を守るように、探偵という仕事を継いだ。
そうして、いつのまにか、十年が過ぎようとしている。
傷、悲しみ…、ハードボイルドの要素が詰まった作品だ。
ぶきっちょな男女が巻き起こす出来事。
その中を、唯は彼らの影響を受けながら進んでいく。
表題作の「観覧車」ほか、6編の男女に絡む物語。
桜と死体の取り合わせは、昔から小説の題材として
見かける。
その中でも、「観覧車」の美しさは心に迫った。
この取り合わせがすぐさま、心に美しい映像として
鮮やかに浮かび上がる。
その美しさは、もろく、はかなく、幻影のようだ。
蓋を開ければ、男と女のどろどろとした感情のもつれや
醜さが事実として隠されているのだが、
登場人物たちが交わす京ことばとあいまって、
柔らかい恋物語に仕上がっている。
夫の行方と、失踪の訳は、
続編「回転木馬」へと引き継がれる。