唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

樋口有介さんの「猿の悲しみ」を読む。

汚れていようが仕事は仕事。どんなに深い闇を目の当たりにしようと、愛する息子のため。風町サエは、腹式呼吸をして、やり過ごす。

 

風町サエシリーズの1作目。

続編の「遠い国からきた少年」から先に読んでしまったのだが、

どちらも読みごたえは十分。


殺人を犯し、刑務所に服役。

その時の弁護士だった羽田のもとで、

「調査員のようなもの」として勤める風町サエ。


この物語には、正義面する人間は出てこない。


誰もが個人的事情を抱え、トラブルやモメごとの

真っ只中を突き進んでいく。


メインキャラ、サエの関心事は、ただただ、溺愛する息子、聖也との

静かな生活。

「人殺し」で服役した母を持つ聖也の将来のため、

1億円を貯めると心に決めている。


そのためには、汚れ仕事だってなんだってやる。

いや、自ら望んで手を染める。


羽田が依頼された裏仕事はサエ担当、

必然的に、世の中の闇の部分、人間の汚れを

真っ向から浴びることになる。


だが、ひるまないし、そういうワルたちに脅しを

かけもする。


刑務所時代に愛読書となった「裸の猿」にある通り、

ヒトも所詮ただのサルと割り切り、

腹式呼吸をしてやり過ごす。


タフで、弱音を吐かないサエに、

拍手喝采してしまう。

 

出版コーディネーター、東宮路子が殺された事件で、

第一発見者となったカメラマンの水沼一良が

どこまで事件に関与しているのかを探るよう、

羽田に依頼される。


調査を進めると、今度は水沼が不審死を遂げる。


警察は、痴情のもつれで水沼が東宮を殺害、

水沼は心臓発作による病死として事件を終わらせた。


サエも事件から手を引こうとしたが、

水沼の母親から、息子は本当に殺人犯なのか、

その「心証」を知らせてほしいと頼まれ、

調査を続行する。


だが、事件の裏には、警察上層部をも黙らせる

巨大な団体の影が浮かび上がり…。

 

柚木草平がちょろっと顔を出し、山川刑事がサエと絡み、

樋口ファンとしては嬉しいオマケだった。


ただ一つ、結末で、サエを驚愕させた疑惑が

何だったのかわからないのが悔しい。

 

 

猿の悲しみ (中公文庫)

猿の悲しみ (中公文庫)