東直己さんの畝原シリーズ「熾火」「墜落」を読む。
大好物の、バツ一、子持ちの私立探偵、畝原シリーズだが、中でも「熾火」が大好きだ。
畝原は、ある晩、血だらけのTシャツを1枚だけ着た、幼児にも見える女の子を保護する。
彼女は戸籍を持たず、ずっと段ボール箱の中で虐待を受けてきた。そして、
腎臓を1つ失っていた。
ある事件がきっかけで親しくなった姉川(やはりバツ一で娘を育てている)は、
女の子のカウンセリングを引き受けるが、女の子に接触する前に
数名のグループに拉致されてしまう。
畝原シリーズには、なにやら得体のしれない、不気味で気持ちの悪い人間が
よく出てくる。
ニヤニヤ笑いながら、平気で残酷なことをする輩や、普通の社会生活を送りながら、
ネジが外れ、想像力のかけらもなく、人を傷つける者、などなど。
「熾火」も、情景描写が抜群なので、気持ちの悪さが尋常でない。
「熾火」の事件をきっかけに畝原と姉川は、「墜落」で結婚しているが、
同時に、この女の子を養女にし、「幸恵」と名付ける。
人間的な扱いを受けてこなかった幸恵は言葉もしゃべれない。
「墜落」以降、この幸恵は、畝原、姉川、そして二人のそれぞれの娘たちの
愛を受け、徐々に、徐々に、人間の子どもらしくなっていく。
陰惨な事件も起きる、いやハードボイルド小説としてはそうした
事件がストーリーの中心となるのだが、
あいまあいまに描かれる、幸恵が笑ったとか、「おとぉ」と言ったとか、
家族が暖かく見まもるなか、人間を取り戻していく、こっちのストーリーも楽しみになっている。