唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

伊岡瞬さんの「145gの孤独」を読む。

日常にポロッ、ポロッと落ちている悲しみを


柔らかな布でくるむように拾い上げ描写する。

 

4つの連作短編。

 

ピッチャーとして輝いていたスター選手、倉沢修介は、


ある打席で死球を与え、相手の選手生命を奪った。

 

と同時に、立ち直るきっかけをつかめず、


自分の選手生命も終わらせた。

 

 

その後、総合サービスの会社を経営する戸部という男に拾われ、


下請けの便利屋サービスを始める。

 

だが、身が入らず、いい加減な仕事ぶりに、


常に社員の一人、西野春香からいらだちをぶつけられている。

 

そして、事務所にはもう一人、春香の兄で、倉沢が


死球をぶつけた西野真佐夫がいるのだが…。

 

 

ある日、「息子のサッカー観戦に付き添ってほしい」という


女性からの依頼を受ける。

 

倉沢は、小学六年のその少年、優介を連れて


サッカー観戦に出かけるが、


少年は観戦せずに、参考書を開き勉強していた。

 

そしてまた、数日たって同じ女性から


同じ依頼が入った。

 

倉沢はその依頼に違和感を感じ…。

 


人は心に大きな傷を負うと、


その傷に向き合うことをやめ、なかったことにしてしまう。

 

それは一種の防衛本能なのかもしれないが、


完全に「なかったことに」はできないのかもしれない。

 

 

心を守っているつもりでも、


一度負った傷は、知らないまにジュクジュクと膿を出し、


心を完全に壊してしまう。

 

倉沢が過去に向き合い、自分を取り戻していくその過程は、


周りを巻き込み、小さくはあるが、ズキズキするような痛みを


与えているような気がする。

 

 

145gの孤独 (角川文庫)

145gの孤独 (角川文庫)