唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

「ふぎゃぎゃぎゃ…」、サックスの音が聞こえそうだ…。田中啓文さんの「落下する緑 氷見緋太郎の事件簿」を読む。

 

落下する緑―永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)

落下する緑―永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)

 

 

 

謎解きの天才には変人が多いが、

この作品の「名探偵」も、空気を読まないというか、

少々変わり者だ。

 

ただ、付き添いのワトソン役のキャラが魅力的であれば、

天才の変人ぶりも気にならなくなる。

 

ここでは、ジャズトランペット奏者の唐島が、

そのワトソン役を務めており、大体は、彼の目線で

物語は進む。

 

ここでいう、謎解きの天才、氷見緋太郎は、

唐島のバンドのメンバーで、新人テナーサックス奏者である。

 

52歳の唐島と、26歳の氷見のコンビぶりが

ユーモアたっぷりで、ニンマリさせられるシーンが多い。

 

唐島は氷見の傍若無人ぶりに慌てながらも、

父親のような目で、彼を見ているような気がする。

 

氷見の、もちろん、奏者としての才能、

そして、探偵としての鋭いカンに対する愛が、

十分、感じられる。

 

ジャズ界にまつわる物語の面白さはもちろんなのだが、

それにもまして、演奏場面が生き生きと描かれており、

奏者たちの熱い息、汗が直で感じられ、

読みながらもスイングしたくなってくる。

 

いや、読んでいるだけでなく、実際、聴きに行きたく、

そして、その場に参加したくなってしまう。

 

それほどに、熱い…。

 

音は、どんな言葉で表現しようと、

なかなか伝わりにくいものだが、

ページの上の「ふぎゃぎゃぎゃぎゃ…」のような

表現を読んでいると、耳の中で鳴りそうな気がする。

 

そしてもう一つ。

各編の終わりの<田中啓文の「大きなお世話」的…>は、

ジャズファンにはたまらない解説だろう。