太田忠司さんの「無伴奏」を読む。
阿南シリーズの四作目。
警官をやめてから、工場勤務、コンビニと勤め先を変えてきた
阿南。
楽しみをシャットアウトして、修行僧のような生活をしてきた。
それが、知らぬ間に、介護士になっていたなんて…。
今回は、大きな事件や謎に遭遇することはないが、
その代わり、阿南の家族との再会、父親への想いが
じっくり描かれる。
父親が危篤に陥ったという姉からの知らせで、
阿南は二十数年ぶりに故郷へ戻った。
そこには、すっかり変わってしまった父親の姿があった。
日常生活もおぼつかなくなり、姉の介護を受けていた。
阿南も、仕事を続けながら父親の介護を手伝うことを
決心する。
そんな中、父親が泣きながら「わたしが、殺した」と告げる。
夢と現実を行き来する父親のただの世迷言なのか、
それとも…。
「人は生まれてから死ぬまで一人」
ひとりひとりが無伴奏で曲を奏でながら生きていく。
作中の登場人物が語った言葉。
私はあなたにも、誰にもなれない。
そして、誰も私になれない。
究極の孤独の中で生きていかなければならない人間だからこそ、
人のぬくもりを無意識に欲する。
不器用な阿南でさえも…。