<龍の耳>とは…、手話通訳、荒井が遭遇する三つの事件…。丸山正樹さんの「龍の耳を君に デフ・ヴォイス」を読む。
前作にもまして、濃密な内容となっている。
そして、心に深くしみいる、刺さる場面が多かった。
「デフ・ヴォイス」シリーズは、その名の通り、
聴覚障害の世界を舞台にした物語。
主人公の荒井は手話通訳士として、ただ単純に、
「通訳」をするだけでなく、ろう者の人間性を知ろうとし、
ろう者に寄り添い、できるだけ正確に彼らの「言葉」を伝えようとする。
今作は、荒井が関わった三つの事件が収められている。
ろう者が社会との関わりの中で抱える問題は、切ない。
中でも切なかったのは、表題ともなった三話。
作品の中で重要な役割を果たす少年、英知は、
聴覚障害者ではないが、発達障害による
心因性の「接触過敏」や「緘黙症」を呈し、
家に引きこもる。
荒井や美和との交流で、手話を覚え、
人とコミュニケーションをはかるようになっていくのだが、
そんな中で、自宅の向かいの家で、男性の他殺体が見つかり、
英知の母親が容疑者になってしまう…。
障害者の世界は、多様だ。
そして、抱える問題も多様である。
私が知っているその世界は、ごくごく一部の狭い部分で、
「接触過敏」や「緘黙症」も初めて知った。
接触過敏の子どもを抱きしめられない親、
伝えたくても伝えられないもどかしさ、
どんな障害も、悲しくないわけない、
切なくないわけない。
障害への認識は、昔より数段も進み、
「障害は個性」なんて甘い言葉も聞かれるけど、
すべてがそのまま受け入れてくれるわけではない。
荒井は、ろう者が関わった事件に遭遇し、
一人ひとりに真摯に向き合い、時には、その対応に悩み、
だが、温かな眼差しで見守り、支えていく。
その眼差しは作者のそれである。
その温かさが、切なく、暗く沈みそうな流れを救っている。
何森の、扱いが難しそうなキャラは相変わらず。
でも、主人公以上に気になるのは…。