唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

<龍の耳>とは…、手話通訳、荒井が遭遇する三つの事件…。丸山正樹さんの「龍の耳を君に デフ・ヴォイス」を読む。

 

龍の耳を君に (デフ・ヴォイス) (創元推理文庫)

龍の耳を君に (デフ・ヴォイス) (創元推理文庫)

  • 作者:丸山 正樹
  • 発売日: 2020/06/22
  • メディア: 文庫
 

 

 

前作にもまして、濃密な内容となっている。

そして、心に深くしみいる、刺さる場面が多かった。

 

「デフ・ヴォイス」シリーズは、その名の通り、

聴覚障害の世界を舞台にした物語。

 

主人公の荒井は手話通訳士として、ただ単純に、

「通訳」をするだけでなく、ろう者の人間性を知ろうとし、

ろう者に寄り添い、できるだけ正確に彼らの「言葉」を伝えようとする。

 

今作は、荒井が関わった三つの事件が収められている。

 

ろう者が社会との関わりの中で抱える問題は、切ない。

中でも切なかったのは、表題ともなった三話。

 

作品の中で重要な役割を果たす少年、英知は、

聴覚障害者ではないが、発達障害による

心因性の「接触過敏」や「緘黙症」を呈し、

家に引きこもる。

 

荒井や美和との交流で、手話を覚え、

人とコミュニケーションをはかるようになっていくのだが、

そんな中で、自宅の向かいの家で、男性の他殺体が見つかり、

英知の母親が容疑者になってしまう…。

 

 

障害者の世界は、多様だ。

そして、抱える問題も多様である。

 

私が知っているその世界は、ごくごく一部の狭い部分で、

「接触過敏」や「緘黙症」も初めて知った。

 

接触過敏の子どもを抱きしめられない親、

伝えたくても伝えられないもどかしさ、

どんな障害も、悲しくないわけない、

切なくないわけない。

 

障害への認識は、昔より数段も進み、

「障害は個性」なんて甘い言葉も聞かれるけど、

すべてがそのまま受け入れてくれるわけではない。

 

荒井は、ろう者が関わった事件に遭遇し、

一人ひとりに真摯に向き合い、時には、その対応に悩み、

だが、温かな眼差しで見守り、支えていく。

 

その眼差しは作者のそれである。

その温かさが、切なく、暗く沈みそうな流れを救っている。

 

何森の、扱いが難しそうなキャラは相変わらず。

でも、主人公以上に気になるのは…。