手が語る言葉、ろう者一人ひとりに、それぞれの事情がある。一つひとつに真摯に向き合おうとする、荒井が関わる四つの物語。丸山正樹さんの「慟哭は聴こえない(デフ・ヴォイス)」を読む。
「デフ・ヴォイス」シリーズの三冊目。
四編が収録されている。
相変わらず、心に染み入る作品だった。
特に、刑事、何森が登場し、中心となって動く
第三話の「静かな男」が、心に刺さった。
すでに使われなくなった元簡易宿泊所で、「静かに死んでいた男」。
事件性は無かったが、ホームレス同然の生活をしていたその男性の身元は、
依然として分からない。
ただ、聴覚障害者ではないかと推測され、
身元を突き止めるために、荒井の協力を得て、何森は動く。
荒井も、何森も、どちらかというと、静かなる男たち。
その彼らが、「静かに死んでいた男」の真実を求めて、
力を尽くす。
社会からこぼれ、三十年、故郷に帰ることができなかった男性の、
手話が、切ない。
ワタシの母も障害者手帳を持ち、三十年以上を過ごした。
その母も、先月、あの世へ旅立っていった。
いまさら思ったって仕方ないことは重々承知で、
それでも、ああも、こうも、してあげればよかった…、その
想いばかりがつのる。一番つらかったのは、母だったのに。
だが、きっと、今は、身も軽くなって、
飛び回っているのだろうと、思うことにしている。