家族が囲む食卓に、「私」は居るけど居ない。家族であっても、伝わらない。この世界に「私」は独りぼっちだ…。丸山正樹さんの「わたしのいないテーブルで デフ・ヴォイス」を読む。
コロナ禍で、社会は大きく変わってしまった。
世界全体が影響を受けたため、その一つひとつ、
一人ひとりに、どんな変化があったのか、知りようもない。
障害者の生活も、大きな波をかぶったのだと、
この作品で知らされる。
ひょっとしたら、ワタシたち以上の苦を強いられることが
あったのかもしれない。
手話通訳士の荒井は、コロナの影響で仕事も減り、
子どもたちの学校が閉鎖されて、二人の面倒をみることに。
そうした中、女性ろう者が母親を包丁で刺したという事件の
弁護チームへの参加が依頼される。
何も「語ろうと」しない女性の心を開かせることができるのか。
女性の周辺に話を聞くうちに、さまざまな事情が浮かび上がってくる。
ディナーテーブル症候群、優生保護法の歴史、ろう者そしてコーダの孤独、
知らなかった、いや、知っておくべきことが、
次々に示される。
障害者の孤独は、その本人にしか分からない。
そして、その周辺にいる人の孤独も。
障害者だった母を亡くして、彼女の孤独を、
いっそう考えるようになった。
彼らの孤独をそのままにしてはならないのだろうが、
そのために、知識も力も持たないワタシができることとは、一体なんだろう。
母の孤独を嘆き、後悔するより、できることとは…。