大倉崇裕さんの「福家警部補の報告」を読む。
出だしは、いつも殺人の実行から…。
つまり、犯人がすでにわかっている、いわゆる倒叙ミステリーものと
初めて遭遇したのが「刑事コロンボ」だった(年がバレバレ)。
まあ、犯人が初めからわかっちゃうのなんて、どう、楽しめるんだろう、
って思ったのは最初だけで、すっかりファンになっていた。
和モノでは、古畑任三郎、そしてこの福家警部補シリーズ。
「細かいことが気になる」なんてのは、「相棒」の右京サンと同じで、
福家もかなりネチッこい性格だ。
3つの短編からなるこの作品では、ところどころで「生き物がかり」シリーズの日塔や石松が
登場。さらに、「少女の沈黙」では、少しだけだが、「生き物がかり」のメインキャラ、須藤と「共演」している。
大サービスだ!
須藤の名前が目に飛び込んできた(それに、ウスキまでも)瞬間、大喜びしていた。
そういえば、小柄で童顔、警察官に、ましてや警部補なんかに見られず、いつも
現場入りでトラブルを巻き起こしているのはウスキも同じだ。
今回の作品も、相変わらずネチっこい捜査で、犯人を追い込んでいく。
だが、事件には直接関係ない人のほんの些細な屈託を取り除いてしまう
一言やアドバイスは、ほっこりさせてくれる。
事件のことしか頭にないようで、周囲の人を注意深く観察し、心を配っている。
これが、福家の魅力の一つである。
しかし、何もかも見通しているかのような福家の恐ろしさは、十分描かれている。
2つ目の「少女の沈黙」では、今は組を解散させているヤクザが、福家に事情聴取された後、
背中を見せて去っていくのだが、「振り向かなかった。もう一度目を合わせたら負ける。
そんな思いに囚われていた…いったい何なんだ、あいつは。恐怖にも
似た余韻を…は感じていた」。
これが、福家の本当の姿なのだろう。