内藤了さんの「犬神の杜 よろず建物因縁帳」を読む。
人の妬み、そねみ、羨みが瘴気となって憑く。今回、曳く「モノ」は建物ではなく…。
今回の舞台は、嘉見帰来(カミキライ)の山を通す風切トンネルの工事現場。
その現場を仕切る建設会社、橘高組で働く女性二人が
相次いで不審死をとげる。
その遺体には無数の噛み傷があったという噂も。
ひょんなことから高沢春菜は、不穏な噂の正体を探ることを頼まれ、
嘉見帰来山の現場に出向することになった。
そして、相手は、成仏させることができる怨霊とは異なり、
「人の我欲が生み出した憑き物」。
己の不幸を呪い、人を羨み、妬み、憎む心に憑き、
決して離れることなく、時として術者にも跳ね返る犬神。
その巣は嘉見帰来山にあった。
「その発現は穢れの極み。御仏の力にすがれない」。
雷介和尚でもどうしようもない。
仙龍がひねり出した秘策は、山を曳くというものだった。
この作品でも、春菜の負けん気の強さは、そこここに表れる。
だが、それは、底意地の悪さでも性格の悪さでもない。
まっすぐな強さだ。
それがあるからこそのサニワなのだろう。
そして、切なくも痛ましい出会いが、ここにもあった。