若竹七海さんの「殺人鬼がもう一人」を読む。
東京にありながら、
警察庁の姥捨山、あるいは流刑地などと
言われている辛夷ケ丘署。
「問題はあるがクビにするほどでもなく、
上司の説得に応じて大人しく
辞表を書くようなタマでもない」人材を
収納しておくだけのとんでもない警察署だとか。
そして、開発されたときは、住人も多く、
街にも活気があったが、
現在は、「見捨てられて、腐りかけた」地区となった
辛夷ケ丘が舞台となった連作モノ。
だが、何もない、腐りかけた地区なんてとんでもない。
様々な悪意、様々な罪が目白押しじゃありませんか。
これでもかと、悪意のオンパレードだ。
まるで、黒い雲が地区全体を覆い、住民を
閉じ込めているかのような。
作品を通して気になるのが、「三白眼の大女」、砂井三琴。
常に「素敵な不労所得」を狙っている、
辛夷ケ丘署生安課の捜査員なのだが、
作品後半になると、ブラックすぎて、彼女の役割が
分からなくなってくる。
犯罪というのは決して特殊なものではなく、
日常生活の一部なのだということ、
普段、心の奥底に隠れている悪意は、
簡単に放出されてしまうこと、
こういうことは、辛夷ケ丘だけのことにしてもらいたい。
ここに出てくる連中に比べると、
「葉村シリーズ」の登場人物たちのほうが、
よっぽどかわいく、善人に見えてくるから不思議だ。