唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

新宿には、「鮫」がいる、そして、佐江もいる…。大沢在昌さんの「冬の狩人」を読む。

 

冬の狩人 狩人シリーズ

冬の狩人 狩人シリーズ

  • 作者:大沢 在昌
  • 発売日: 2020/12/18
  • メディア: Kindle版
 

 

 

やっと、帰って来た!佐江。

「新宿鮫」と同じくらい、心待ちしているのが、

この「狩人」シリーズだ。

 

ならばと、シリーズ一作目から読み返す。

中でも、「砂の狩人」、シリーズの中でも、

傑作中の傑作だと、個人的に思っている。

 

ヤクザやヤメ刑事といった、

崖っぷちに立った男たちの、息詰まるような

命のやり取りは、スリルをあおられ、ヒリヒリするのだが、

ふと、切なさを感じもする。

 

ギリギリの切羽詰まった状況を生き、

そして、死に直面する登場人物たちが、

妙に愛おしくもなる。

 

特に、西野の生きざまには、心をゆさぶられた。

 

さて、そんな主役たち、「猟犬」の、常に傍にいるのが佐江だ。

 

だが、今回の作品は、少々、趣が違う。

佐江自身が主役となって、「猟犬」の務めを果たすのもそうだが、

舞台が新宿ではなく、H県という、佐江とは縁もゆかりもない場所になっている。

 

そこへ引っ張り出され、そこで起きた、

これも佐江とは全く関係ない、過去の事件の真相を追う羽目になる。

 

そして、今回の相棒は、地方の刑事。

佐江のような、切ったはったの経験など一つもない、「まっとうな」刑事だ。

それも、勝手が違う一つ。

 

ここには、死に急ぎする元刑事も、組の抗争もないが、

ヒリヒリ感は、後半に進むにしたがって、増してくる。

 

このシリーズでも明らかなように、

佐江という男、風采は上がらない。

腹は突き出しているし、ヨレヨレだ。彼自身、服装など、

清潔であればいいと思っている。

 

だが、シリーズを追うごとに、

そんな佐江が、実に男前に見えてくる。

中味はもちろんのこと、外見もだ。

シュっとしたイケメンに見えてくるのだから不思議だ。

 

それは、きっと、相手が権力を持つものであろうと、

そして、命を脅かされようと、結局は、意思をまげない、

ブレない、強いモノが芯にあるからだろう。

 

もう一つの人気シリーズ「新宿鮫」の鮫島に、

通ずるものだ。

 

そういえば、作品中に、鮫島の存在をにおわせる描写があったっけ。

 

いつか、新宿を舞台に、この二人がともに活躍する物語を読みたい…、

そんな願いが強くなる。