唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

日明恩さんの「ギフト」を読む。

レンタルビデオ店の店員、須賀原は、

ある棚の前に立ち一点を見つめる少年に目を留める。

 

彼は毎日のように来ては、棚に置かれたDVD、

映画「シックスセンス」を見つめ、そして、

静かに涙を流していた。

 

須賀原はある日、街でその少年をみかける。

 

彼は、横断歩道の信号待ちをしていたが、

突然、何かから逃げるように道路へ飛び出す。

 

思わず少年の腕をつかんで引き戻した須賀原が

見たものは…。

 

顔と体の左側が砕け、血を流す老女が目の前に現れる。

それは、普通の人間にはありえない死者の姿だった。

 

その少年には死者が見えるのではないか、そして彼に触れた自分にも。

 

その日から須賀原は、ある目的をもって彼に近づいていく。

 

須賀原は警察官であったが、刑事時代、

自転車泥棒をしようとしていた少年を追いかけ、

事故死させてしまうという過去があった。

 

それ以来、苦しみの中だけで生きてきた。

彼に会い、あやまりたい…。

 

 

死者の見える少年と出会い、

現世にとどまる死者たちの抱える問題を解き明かし、

そして、見送るまでの6つのストーリー。

 

突然命を奪われてしまった死者、自ら命を絶った死者。

それぞれが思いを残して、この世を漂い続ける。

 

死に至っても苦しみから逃れることはできない人間とは、

なんと、業の深いものなのか。

 

だが、痛みや重さだけではない。

 

死者が見えることで苦しみを抱える少年と、

人の命を奪ってしまったことに苦しむ須賀原の

再生の物語でもある。

 

ギフト (双葉文庫)

ギフト (双葉文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高橋由太さんの「都会のエデン 天才刑事姉崎サリオ」を読む。

異形の警察官、姉崎サリオ。

 

「四十過ぎで、身長百八十センチ、体重百四十キロは

あると思われる相撲取りのような身体つき」の男。

そして、黒髪をおだんごにし、黒いワンピースを

身に付け、オネエ言葉を使う。と、くれば、

誰もが、あの超有名芸能人を思い浮かべる。

 

だが、その実体は見た目とかけ離れている。

 

国立大学を卒業。国家公務員採用試験に合格し、

キャリアとして警視庁に入庁した。

 

キャリアではあるが、警察官として優秀で、

抜群の検挙率を誇り、誰もが、彼を

「天才」と呼んだ。

 

だが、地方警察の公安部門に配属されてから、

相棒が殉職する。

 

その事件の後から姉崎は女装し、オネエ言葉を

使い、はぐれ者のキャリアになったのだという。

 

そして現在は、警視庁捜査一課きっての天才刑事ではあるが、

一種独特の存在になった。

 

 

前科持ちの男が、ビルの屋上から突き落とされて死んだ。

目撃者は多く、ほどなく犯人は逮捕される。

 

さらに、被害者、久野学の三歳の息子、和也が

行方不明になる。

 

父親の死に関連があるのか。

 

そして、不審な動きを見せる警備員の峰岸。

彼はかつて、「伝説」と呼ばれた警官だった。

 

捜査一課に配属になったばかりの新米刑事、

緒方孝太郎は、男児行方不明事件の捜査本部に召集される。

 

だが、向かわされたのは姉崎サリオが班長の特捜班。

しかも、部下は孝太郎一人だけだった。

 

その日から、孝太郎は姉崎に振り回されながら、

一課の刑事としてはじめての事件に取り組む…。

 

ギャグっぽさ満載のストーリーだが、

それだけで終わらない。

 

借金、貧困、貧困から生まれる犯罪、

犯罪者家族のインターネット晒し…。

そうした悲劇がまた、新たな犯罪を生む。

 

悲劇の渦に巻き込まれた人々の生き様は、

言葉にならないほど厳しく、切ない。

 

 

都会のエデン: 天才刑事 姉崎サリオ (光文社文庫)

都会のエデン: 天才刑事 姉崎サリオ (光文社文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東直己さんの「半端者」を読む。

呑んだくれの「ごく潰し」。

ススキノを、はしご酒しながら、スイスイと泳いでいく。

 

ススキノの便利屋探偵<俺>の若き日の物語だ。

 

北大生の<俺>だが、その後の<俺>は、

この頃と殆ど変わらない。

 

高田や、周囲の飲み屋との付き合い方にも

変化はない。

 

変わったところがあるとすれば、

少しは度胸がついて、強くなった?

 

でも、潔いほど、生き方にブレはない。

 

トラブルに巻き込まれ、ススキノを走り回る

「今」のようなヒリヒリ感はないが、

厄介ごとに首を突っ込み、ボコボコにされたり、

「まだ、ガキだ」と落ち込んだり。

多少の初々しさがある。

 

降ってわいたようなラブストーリーもあり、

若い時代の尻尾のようなものが感じられ、

これはこれで、面白くもある。

 

近頃の<俺>シリーズでは、あまり顔を見せないが、

<ケラー>のマスターの登場シーンが多いのは

嬉しい。

 

時には鋭さを見せたり、若き<俺>に説教したり。

 

教育者ではない、こういう飲み屋のオヤジが

若者には必要かもしれない…。

 

 

半端者?はんぱもん? (ハヤカワ文庫JA)

半端者?はんぱもん? (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

 

 

 

 

 

内藤了さんの「サークル 猟奇犯罪捜査斑・厚田巌夫」を読む。

凄惨な現場に臨場する厚田刑事。

そして、彼と夫婦となった石上妙子の若き日の物語である。

 

警察官一家、夫婦と子供二人が刺殺されたあげく、

全員の心臓がくりぬかれる。

放射状に並べられた遺体の頭の上にそれぞれの心臓を置くという

通称、「魔法円殺人事件」。

 

この事件は未解決のまま、<藤堂比奈子シリーズ>の

「Copy」へと繋がっていく。

 

だが、この作品の核は事件ではもちろんなく、

検視官石上妙子と厚田がいかにして夫婦になったか、

彼女のお腹に宿った子どもの行く末、

そして、いかにして夫婦でなくなったのか、

二人の、夫婦や仲間というより、人間としての絆が描かれる。

 

二人を結びつけるものは、

夫婦愛などではなく、「敵を取ってくれと

訴える被害者」なのだと、厚田は思う。

 

夫婦であろうがなかろうが、

この二人以上に強く結びついている男女はないだろうし、

それは、うらやましいことでもある。

 

 

サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫 (角川ホラー文庫)

サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫 (角川ホラー文庫)

 

 

 

 

 

 

伊岡瞬さんの「145gの孤独」を読む。

日常にポロッ、ポロッと落ちている悲しみを


柔らかな布でくるむように拾い上げ描写する。

 

4つの連作短編。

 

ピッチャーとして輝いていたスター選手、倉沢修介は、


ある打席で死球を与え、相手の選手生命を奪った。

 

と同時に、立ち直るきっかけをつかめず、


自分の選手生命も終わらせた。

 

 

その後、総合サービスの会社を経営する戸部という男に拾われ、


下請けの便利屋サービスを始める。

 

だが、身が入らず、いい加減な仕事ぶりに、


常に社員の一人、西野春香からいらだちをぶつけられている。

 

そして、事務所にはもう一人、春香の兄で、倉沢が


死球をぶつけた西野真佐夫がいるのだが…。

 

 

ある日、「息子のサッカー観戦に付き添ってほしい」という


女性からの依頼を受ける。

 

倉沢は、小学六年のその少年、優介を連れて


サッカー観戦に出かけるが、


少年は観戦せずに、参考書を開き勉強していた。

 

そしてまた、数日たって同じ女性から


同じ依頼が入った。

 

倉沢はその依頼に違和感を感じ…。

 


人は心に大きな傷を負うと、


その傷に向き合うことをやめ、なかったことにしてしまう。

 

それは一種の防衛本能なのかもしれないが、


完全に「なかったことに」はできないのかもしれない。

 

 

心を守っているつもりでも、


一度負った傷は、知らないまにジュクジュクと膿を出し、


心を完全に壊してしまう。

 

倉沢が過去に向き合い、自分を取り戻していくその過程は、


周りを巻き込み、小さくはあるが、ズキズキするような痛みを


与えているような気がする。

 

 

145gの孤独 (角川文庫)

145gの孤独 (角川文庫)

 

 

若竹七海さんの「さよならの手口」を読む。

探偵を休業し、ミステリ小説専門の古本屋でバイト中の葉村は、

古本を引き取りに民家を訪れる。

 

押し入れにあった本を物色しようと体を突っ込んだとたん、

床を踏み抜き転がり落ちる。

 

転がり落ちた先には、なんと、白骨遺体があった。

 

白骨に頭突き、なんていう経験は、葉村以外、

なかなかできるものじゃないのだろう。

 

「不運な探偵」というキャッチフレーズ(?)を

付けられた葉村の面目躍如といったところか。

 

ともかく、そのケガで病院に運び込まれるのだが、

同室の、往年の大女優から、失踪した娘の行方を

探してほしいと頼まれる。

 

この依頼を受けた瞬間から、数々のトラブル、

厄介ごとが葉村に襲い掛かるのだ。

 

で、今回は、まあ、ケガのオンパレード。

 

白骨への頭突きに始まり、

男に首を絞められた拍子に床に倒れ

顔面負傷。

 

そして、病院での大立ち回りで、

看護師の頭突きを胸に受けたり…。

 

相変わらず、調査で浮かび上がってくる人の悪意や

ハードな事実が、乾いた文体とシニカルな葉村の

毒づきで淡々と語られる。

 

そうした悪意や悲しみが澱のようにたまってくる。

 

真正面から向き合う探偵は、よほどタフでなければ務まらない。

 

ある作家が探偵に言わせた言葉を思い出す。

「強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない」。

 

優しさとは強さ、強さとは優しさだと、この時思った。

 

 

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)

 

 

大沢在昌さんの「北の狩人」を読む。

北の国から新宿に一人の男がやってきた。

 

彼は、十年以上も前につぶれた暴力団、「田代組」のことを

聞きまわっている。

 

その男が動き回るにつれ、新宿の闇社会にさざ波が立ち、

やがて大きなうねりとなって、男たちを巻き込んでいく。

 

「狩人」シリーズの第1弾。2作目から先に読んでしまったのだが、

シリーズとは言っても、独立した物語で、

違和感はない。

 

「汚れのない瞳」を持つ北から来た男、梶雪人は

方言丸出しのしゃべりで、朴訥で爽やかこの上なく、

闇社会の男たちとは対象的に描かれている。

 

そして、彼と触れ合った男たちは誰もが、

梶の魅力にひきつけられるのだ。

 

新宿署の佐江も例外ではない。

 

始めは、無防備に嗅ぎまわる梶に

うさん臭さを感じるのだが、

その正体を知り、梶の人柄に触れたとたん、

肩入れしてしまう。

 

って、佐江は、「砂の狩人」にも登場するから、

「狩人」シリーズをつなぐキーマンは佐江なのか。

 

そして、もちろん梶は魅力的なのだが、

「本藤組」の宮本の生き様が、

「砂の狩人」の西野と重なり、切ない。

 

 

北の狩人〈下〉 (幻冬舎文庫)

北の狩人〈下〉 (幻冬舎文庫)

 
北の狩人〈上〉 (幻冬舎文庫)

北の狩人〈上〉 (幻冬舎文庫)