唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

中山七里さんの「翼がなくても」を読む。

ストーリー展開は、やはり、流石だと思わされる。

だが、ひとつ、乗ってこない。

 

絶望と希望に翻弄される主人公の心のありようは、

ジェットコースターなみに、天から地へ、

地から天へ、だろうが、

どうしても、主人公に心が寄りそっていかない。

 

アスリートの負けず嫌いは知っているが、

そうでなければ、勝負の世界を生き抜いては

いけないのだろうが。

 

ただ、謎が解かれた後、主人公の意地、

性急さといったものに説明がつき、納得はできた。

 

それでも、やっぱり、なんか違うなぁという感じは

ぬぐえなかった。

 

犬養刑事と御子柴弁護士の共演、

もっと違うシチュエーションで、

そして、完全ミステリーで読んでみたかった。

 

 

オリンピックを目指すスプリンターの市之瀬沙良は交通事故に巻き込まれ、

片足を失ってしまう。

 

事故を起こした相手は、隣家に住む幼馴染の相楽泰輔だった。

相楽家は市之瀬家との和解交渉に弁護士をたてる。

その弁護士が御子柴。

 

スプリンターの夢を絶たれた沙良は、

絶望の中で毎日を過ごす。

ところが、泰輔が何者かに殺されてしまう。

 

捜査を進める犬養は、泰輔が起こした事故に

注目するのだが…。

 

 

 

翼がなくても

翼がなくても

 

 

 

 

 

 

 

 

吉永南央さんの「花ひいらぎの街角」を読む。

小蔵屋のお草さんと、周囲の人々との

温かかったり、ちょっと苦かったりする交流を描いた

「紅雲町シリーズ」も六作目。

 

流れるような文章が心地よい。

 

リズミカルでありながら、急ぎすぎない。

お草さんの足取りに合わせるような。

 

一話一話、一字一句、大切に読みたい。

 

人と人が交われば、日常の中で、

どうしても起こるすれ違いやいさかい、そして謎。

 

端から見れば小さいものかもしれないが、

当人にとっては、日々の生活を滞らせるもの。

 

このシリーズを読むと、

ああ、こうして解決すればいいのかと、

思わされる話もある。

 

日々の暮らしが積み重なり、それぞれの人生となっていく。

 

普通の人生とは言うけれど、

どこにも普通と言えるものはなく、でも、普通は普通。

 

普通って、いったい、何なのだろう。

 

戦後の若い時代を一緒に過ごした友人から小包が届く。

お草さんには、掛け軸の上巻が、

そして珈琲の師匠、パクサンには下巻が。

 

それをきっかけに、五十年ぶりに旧友三人が再会する

一話「花野」から、徐々に物語は広がっていく。

 

五十年、なんと長い時間、

でも、ほんの一瞬の間のようで…。

 

人が水面に投じた石は波紋を作る。

それをきれいだと思う人、不安あるいは不満を抱く人。

 

感じ方は人それぞれ。波紋を作った相手を恨む人も

いるかもしれない。

 

ワタシ自身、人生の中盤をとっくに過ぎ、

なんだか、今回の一冊は、特に心にしみた…。

 

 

花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ

花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ

 

 

 

 

 

 

香納諒一さんの「刑事群像」を読む。

大河内、渡辺、石嶺といった刑事たちの活躍が

楽しみな捜査一課強行班七係「小林班」シリーズも三作目。

 

今回は、同じ捜一の中本班との合同捜査となる。

小林班のデカ長、大河内と中本班のデカ長、庄野との

連係プレーは読みごたえがある。

 

 

ただ、圧倒的迫力に一気読みしてしまった「贄の夜会」と比べると、

少々物足りなさを感じてしまう。

 

物足りなくはあり、犯人の粘っこい悪意はそれほど感じられないが、

刑事たちの、コツコツと事実を積み上げていく捜査は

いつも通りで読むほうも力が入る。

 

大田区の路上に遺棄された女性の全裸死体。

被害者は、経営コンサルタントの坂上実咲と判明する。

捜査が進むうち、被害者は複数の男性と関係を持っていることも

わかってくる。

 

当初、痴情のもつれによる犯行だと筋読みされていたが、

坂上が、二年前に発生したプライベートバンカー殺人事件と

関連があることが判明し、さらにその事件で負傷し退職した

元刑事も絡んできたことで、事件は複雑な様相を呈してくる。

 

 

刑事群像

刑事群像

 

 

大沢在昌さんの「雨の狩人」を読む。

「北の狩人」「砂の狩人」「黒の狩人」と

生き残ってきた新宿署組対課刑事の佐江。

 

いつも、誰かの死を見届けてきた。

やはり、狩人シリーズの主役は佐江なのだ。

 

自らを「クソ刑事」と言いながら、

決してブレることなく、誰からの威しに屈せず、

悪い奴に手錠をはめるため、命を張る。

 

今回の相棒は、警視庁捜査一課の谷神。

謎をまとった男だ。

 

不動産業を営む高部斉が、歌舞伎町の雑居ビルで

射殺される。

 

暴力団との関連は認められなかったが、

殺しの手際の良さから、プロの仕事が疑われる。

 

佐江は谷神と組んで捜査を進めるうち、

巨大な暴力団組織、高河連合の影が見え隠れし始める。

 

闇市の流れをくむオレンジタウンの地上げ、

その裏に潜む大きなプロジェクト。

 

 

真相に迫るにつれ、佐江と谷神はヤクザの幹部から

命を狙われる。

 

タイから来た殺し屋、そして、佐江の命を救う少女。

 

散らばっていた複数の事件が集束しながら、

圧巻のラストへとなだれ込む。

 

暴排条例によって締め付けられ、

その存在の形を変えざるをえなくなった暴力団組織。

なんとしても生き残ろうとするヤクザ幹部、

そのヤクザに忠誠を誓う殺し屋。

 

警官であろうと、悪い奴であろうと、

男たちの生きざまは熱く、息遣いは生々しい。

そして、どうしようもなく切ない。

 

狩人シリーズは、どうやら完結を迎えてしまったようなのだが、

佐江に、また、どこかで会えるのだろうか。

 

 

雨の狩人 狩人シリーズ

雨の狩人 狩人シリーズ

 

 

 

 

 

 

 

 

柴田よしきさんの「青光の街(ブルーライト・タウン)」を読む。

ブルーライト探偵社本営業所の所長、草壁ユナは

雇われ所長である。

 

本業は作家。

 

この探偵社の所長だった高橋信三は、かつて草壁の担当編集者だった。

アレコレあって、高橋は出版社勤めを辞め、

探偵社を立ち上げた。

 

草壁は、体を壊した高橋から自分の後釜として所長の椅子に座るよう頼まれる。

本業を続けながら、という条件でその頼みを引き受け、

「お飾り」で「ド素人」の探偵社所長が誕生した。

 

雇われ所長の探偵社でも、優秀なスタッフばかりのようで、

キャラ的にもなかなか魅力的だ。

 

草壁の過去は、途中で、ざっと語られる。

 

乳児の頃にアメリカの養護施設に保護され、

二歳になる前に、日系人夫婦の養子になる。

養父母は強盗に殺され、生き残った草壁は、

広島にいた養父母の祖母に引き取られる。

 

大人になればなったで、

二回の結婚で、どちらの夫も事故で失う。

あとあと明らかになるのだが、

最初の夫は、不倫の末の自殺のような事故死だったらしい。

ただし、遺体は上がっていないため、謎が残る。

 

なんと、ヘビーな過去を持つ女性か。

 

とはいえ、この過去は、今回の物語に直接かかわっては

こないのだが。

 

さて、物語は、連続殺人で幕を開ける。

OL、出版社社員、女子中学生、

それぞれ殺害方法は違うが、遺体のそばには、

クリスマスツリーに飾る青い電飾が数本残されていた。

 

一方、草壁の元に、友人の秋子から、

「助けて」という件名だけのメールが届く。

 

秋子は、草壁と旅行にいくと言って家を出たままだということがわかる。

 

さらに、婚約者の身辺を探ってほしいという女性の依頼を受けるが、

調査を進めるうちに、その婚約者は車の暴走事故に

巻き込まれ、命を落としてしまう。その現場には、

またまた青い電飾が…。

 

幾つもの事件が折り重なり、謎は絡み合い、

物語は、スピードを落とさず結末まで突っ走る。

 

本の帯には、「草壁ユナ、最初の事件」とあるから、

続編がある?

 

 

青光の街(ブルーライト・タウン) (ハヤカワ・ミステリワールド)

青光の街(ブルーライト・タウン) (ハヤカワ・ミステリワールド)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香納諒一さんの「完全犯罪の死角 刑事花房京子」を読む。

事実を一つ一つ丹念に確かめ、推理を構築し、

そしてまた、確かめる。

 

刑事は「ニコイチ」が原則だが、

彼女は一人で、粘り強く関係者の聞き込みに回り、

徐々に真実へと近づいていく。

 

それは、犯人にとっては、不安を増幅する崩壊への足音のようだ。

 

花房京子は、警視庁捜査一課の女刑事。

描写によると、身長一七五センチはあるかと思われる

大柄な女性だ。

 

洞察力、観察力はハンパないから、

鋭利な刃物のようなキャラかと思いきや、

のほほんと、あるいは飄々としていそうな感じ。

 

仲間からは、「のっぽのバンビ」などと呼ばれている。

 

物語は、老舗の家具屋「沢渡家具」の社長である

沢渡留理が異母兄の要次と、その秘書で愛人でもある

福田麻衣子を殺害するところから始まる。

 

いわゆる倒叙モノ。

 

ここまで来ると、ワタシたちは

ある有名な警部補の姿をイメージする。

 

ま、あちらは、小柄で学生と間違えられそうな

風貌なのだが。

 

この作品の続編が出るのだとしたら(期待はしている)、

倒叙モノシリーズが読めるのだろうか。

 

 

完全犯罪の死角 刑事花房京子

完全犯罪の死角 刑事花房京子

 

 

 

 

 

 

長沢樹さんの「月夜に溺れる」を読む。

なかなか面白いキャラ設定。

 

神奈川県警生活安全部に所属する真下は優秀な女刑事だが、

恋愛体質であるところが玉に瑕。

 

バツ二。相手はどちらも同じ警察官で、

それぞれとの間に一人ずつ子供がいる。

 

現在は、二度目の結婚でできた娘を引き取り、

子育て中だ。

 

さらにさらに、殺人事件の被疑者とは知らずに付き合い、

アリバイ作りに利用される始末。

 

これだけだと、どこが優秀なんだと思うのだが…。

 

情にほだされっぱなしというわけではなく、

犯行におけるほころびを冷静に突いていき、

真実にたどり着く。

 

二番目の元旦那からは、

「…は君がいなくても、君以外の誰かを利用して殺人を実行しただろう。

…君でよかったんだ。隙があるんじゃない。君には犯罪者を誘引する

何かがあるんだ。それは君の才能であり、早期解決は君の成果だ」と、

慰められる。

 

問題児ではあるが、上からは結構、頼りにされている。

部内ではどこの班にも属さず、課長や中隊長の預かりで、

応援を命じられれば、どこへでも飛んでいく、言うなれば、遊軍扱い。

 

四つの事件が描かれるが、

十代の少女たちの危なげだが、大人顔負けの犯罪、

そしてやるせなさや哀しみが見えてきて、少々、せつない。

 

 

月夜に溺れる

月夜に溺れる