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ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

榎本憲男さんの「ワルキューレ 巡査長 真行寺弘道」を読む。

 

ワルキューレ-巡査長 真行寺弘道 (中公文庫)

ワルキューレ-巡査長 真行寺弘道 (中公文庫)

 

 

 

「巡査長」シリーズ、主人公が異端なら、

物語の展開も異色だ。

 

いつも、事件の核が大きすぎて、

法の範疇を超えてしまう。

挙句、犯人を追い詰め、捕らえ、

「よかったね、チャン、チャン」という

結末には至らない。

 

好き嫌いのわかれるところだ。

 

今回も、LGBTだの、障害者だの、

遺伝子操作だの、生命倫理だの、

フェミニズムだの、

一つでも手に余るのに、大挙して押し寄せてこられたひにゃ…。

答えは、永遠にでないのだ。

 

だが、そういったことをひっくるめて、

面白いと、納得させられてしまう。

 

それはひとえに、真行寺の、

いい加減なように見え、事件にも人にも、

迷いながらも真摯に向き合おうとする気持ちや、

裏切ることのない、警察官としてより人間としての「まっとうな」考え方が、

余すところなく描かれているからかもしれない。

 

彼の行動にも、生き方にも矛盾がないところが

何とも気持ちがいいのです。

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元モデルで聾者の少女、麻原瞳が誘拐された。

捜査を命じられた真行寺は、瞳の母親から話を聞くが、

その応対にかすかな違和感を覚えた。

 

しばらくして、犯人からのメッセージが届くのだが、

それは、母娘と同居するフェミニズムの論客、デボラ・ヨハンソンに対し、

これまでの思想や言動の誤りを認め、

活動から身を引くよう要求するものだった…。

 

柚月裕子さんの「盤上の向日葵」を読む。

 

盤上の向日葵

盤上の向日葵

 

 

後半まで被害者の身元は明かされない。

誰を、誰が殺したのか。

 

山中から発見された白骨死体。

死体と共に、高価な将棋の駒が埋められていた。

 

それは、数百万円の価値があると言われる

名工の作品だった。

 

優秀な頭脳を持ちながら、過酷な環境を

生きなければならなかった男の人生が、

平行して語られる。

 

そして、被害者、「誰を」が分かったとき、

すべてが明らかになる。

 

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プロ棋士を目指すも、途中で挫折し、

警察官になったという変わり種の刑事、佐野直也と、

傲岸不遜、上の者でもかみついていくが、

腕は一流のベテラン刑事、石破剛志のコンビが、

遺留品の駒の持ち主を求めて、

地道な捜査を続けていく。

 

ギリギリの崖っぷちで生きる、あるいは

生きてきた男たちの結末は、

ある意味、切ない。

 

ワタシには、将棋の知識は全く無い。

 

もちろん、読みごたえのある作品だったが、

少しでも、知識があったなら、

作品の醍醐味をより味わえたのだろうか。

 

大山誠一郎さんの「アルファベット・パズラーズ」を読む。

 

アルファベット・パズラーズ (創元推理文庫)

アルファベット・パズラーズ (創元推理文庫)

 

 

 

いわゆる、安楽椅子探偵モノだろうか。

 

三鷹市の同じマンションに住む警視庁捜一の刑事、後藤慎司、

精神科医の竹野理絵、翻訳家の奈良井明世、

この三人がマンションオーナーである峰原卓の

部屋に集まり、事件解明の推理を披露する、

四編の連作集である。

 

名探偵役を務めるのが峰原で、

情報を提供するのが三人の住人という設定。

 

ダイイングメッセージや密室など、

仕掛けられたトリック解明の醍醐味を純粋に楽しむ作品だ。

 

複雑な人間関係や、裏に隠された事情といったものが

ない分、サラリと読める。

 

ただ、誘拐事件を描いた最後の事件、

「Yの誘拐」は「ほう、そうきたか」と意表をつかれ、

楽しませてもらった感がある。

 

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小路幸也さんの「アンド・アイ・ラブ・ハー」を読む。

 

アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン (集英社文芸単行本)

アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン (集英社文芸単行本)

 

 

 

 

「東京バンドワゴン」シリーズも14作目だとか。

 

このシリーズを読んでいると、

ワタシらの世代が育った、「向こう三軒両隣」的なものが

鮮やかに思い出され、昭和の真っただ中にいるような

気にさせてくれる。

 

自分の原風景を見るようで、涙がにじんでくるのだ。

 

今、現代社会では、ご近所の交流といったら、

トラブルしか思い描けないから余計だ。

 

ご近所の付き合いを、誰もが面倒がらずに、

楽しんでいる。

助け、助けられ、これはもう、

今としては、理想としか言いようがない。

 

なかなか手に入らないもの、だからこそ、

人の心を掴むのだろう。

 

この堀田家の雰囲気は、決して変わることなく、

そこにあり続ける。

 

裏堀田家の姿など、思いようがない。

 

悪意の陰すら見えない。

 

だからこそ安心して、

読み進めることができる。

そんな、安心感がシリーズを支えている。

 

哀しく、心がささくれ立つような展開を

誰も望まない。

 

ぬるいと言われようと、

日の光が差し込む結末を求めるのだ。

 

 

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今作は、「秋」から始まって「夏」まで、

四季の副題がついた、4つの物語。

 

家族が大切にしている人との永遠の別れや、

思いがけない決心など、相変わらず、様々な出来事が

起こるが、収まる所に、収まるべくして、収まっていく。

 

 

榎本憲男さんの「巡査長 ブルーロータス」を読む。

 

ブルーロータス-巡査長 真行寺弘道 (中公文庫)

ブルーロータス-巡査長 真行寺弘道 (中公文庫)

 

 

 

異端の警察官、巡査長・真行寺の活躍が再びみられる。

 

この「巡査長」は全くと言っていいほど自由だ。

 

本庁の捜一に在籍しながら、たまたま出くわした

所轄の殺人事件に首を突っ込む。

 

その捜査で、北海道まで飛んで行ってしまう。

そこで知り合ったばかりの若者の部屋に泊まり込んでしまう。

 

いやいや、挙句、インドまで行ってしまうのだ。

 

実に「自由人」だ。

 

だが、この自由人、自由であるために、見えないところで

戦ってもいるのだ。

「なにかに抵抗しようとする暗い情念が

ずっとくすぶっているのだった」と自己分析もしている。

 

事件の真相を辿る旅は、殆ど、真行寺の心の声を辿る旅だ。

 

だからこそ、わかりやすい。

読者は、真行寺の自問自答と同じ足並みで、真相を目指すことができる。

 

警察小説で、事件の解明ありきなんだが、

今回は、個とか、人ってなぁにとか、自由とか、

(自由なんて代物は実在するもんじゃない、

それはただの概念だ。

自由だと思えば、そこに自由はあり、

自由じゃないと思うところに、自由はない)

ふと、立ち止まって、そんな目に見えないものを、

目で追ってしまっている。

 

インド文化、宗教、カースト制度、AI、

無人自動車、そういったものが、次から次へと提示され、

科学や哲学の世界が入り交じり、どんどん広がっていく。

 

悪党も、刑事でさえ哲学的で、

それは、論理的な事件解明を遅らせるが、

破綻はしない。

 

そして、ニコイチに従わない真行寺の唯一の相棒、

黒木との再会。

 

このコンビはとりあえず、いつまでも見ていたいので、

どうか、捕まることなく、末永く…。

 

さらに、大胆な結末。

う~ん、どう、考えたら、どう、想像したらいいんだろうか…。

 

 

真行寺は、荒川の河川敷でインド人男性の死体が発見されたという

事件に出くわす。

 

男性の耳には火傷の痕があり、熱い油を注がれてできたものと

判明する。

 

これは何を意味するのか。

 

事件を追ううち、彼は、インドの社会制度の闇と

深く関わっていくことに…。

 

誉田哲也さんの「正しいストーカー殺人」を読む。

 

 

 

短編、一編だけだからか、

少々、物足りなさが残った。

 

姫川の動物的カンと行動力は健在。

 

だが、なんか、足りない。

 

やっぱり…、しょっぱなの姫川班のメンバーが

いないせいか。

 

姫川玲子の物語、ではあるが、

昔の姫川班丸ごとの物語として楽しんでいたからか。

 

菊田、日下といった馴染みのメンツは登場していたけど。

 

「捜査一課でみんなを呼び戻し、姫川班を再結成しよう」って

言っていたアナタ。

 

いつになったら、それが実現するのでしょうか。

 

 菊田はいるけど、これって、いつの話?

 

 

 

男性がマンションの踊り場から転落死した。

丸川伊織という女性が被疑者としてすぐに確保され、

「見知らぬ男性につきまとわれ、襲ってきたため

反撃した」と供述するが、姫川は、その供述に

疑いを持つ…。 

 

麻野涼さんの「県警出動 黒いオルフェの呪い」を読む。

 

県警出動: 黒いオルフェの呪い (徳間文庫)

県警出動: 黒いオルフェの呪い (徳間文庫)

 

 

 

作品に登場する群馬県警の刑事たちは誰もが地味ではあるが、

素朴で好感が持てる。

 

悪徳刑事のストーリーもスリルがあって面白いが、

文字通り、「靴底をすり減らし」、一つ一つ

事実を積み重ね、地味な捜査をコツコツとこなしていく

刑事たちの物語は、また違ったスリルが味わえる。

 

この「県警出動シリーズ」の財津は、

「着た切り刑事」と異名をとるほどで、

ホームレスのほうがまだしもと思わされるような

みすぼらしい風体だそうだ。

 

さらに、方言丸出しの会話は、

ストーリーのスピード感をそぐような気もしないでもないが、

そもそも、情報を丹念につぶし、

我慢して我慢して捜査を続ける刑事たちの話なのだから、

かえって、読むこちらも、ゆっくり、話を追っていける。

 

また、財津の相棒である塩野も、

尊敬する財津にならって、ヨレヨレの格好を押し通している。

 

なんで、こんな設定になったのか、興味が湧くところだ。

 

群馬県内の湖で、沖縄からやってきた元米兵、

ライアン・ミラーの遺体があがった。

事故なのか、あるいは自殺か、事件性はないのか、

なぜ、彼は沖縄からやって来たのか…。

 

彼は生前、日本人の妻に「金の心配はするな。

黒人のオルフェが微笑んでくれる」という謎の言葉を

残していた。

 

捜査が進むに従い、ライアンは、

ブラジル移民の父とブラジル人の母を持つ

歌手、クラウジア明美を気にしていたことが判明する。

 

さらに、彼女のヒット曲の歌詞には、「黒いオルフェ」という

言葉があった。彼女とライアンとの関係は…。

 

コツコツと読み進めてきた結末、事件の事実関係の説明が

少々、くどかったかも…。