唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

皮肉たっぷり、でも、ちょっとユーモラス、若竹ワールドが全開!若竹七海さんの「死んでも治らない 大道寺圭の事件簿」を読む。

 

死んでも治らない (光文社文庫)

死んでも治らない (光文社文庫)

  • 作者:若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2005/01/12
  • メディア: 文庫
 

 

 

初めて読んだのがもう、十年以上前だから、

決して新しい作品ではない。

 

十年前に読んだとき、どんな感想を持ったのか、

もう、完全に忘れている。

 

もちろん、作品の内容も。

 

で、若竹七海さんの作品は、

世界一不運な女探偵、葉村シリーズから入り、

殆どすべて、読んでいる。

 

この作家さんの、少々、意地悪な見方、

斜に構えた雰囲気、人を突き放すような物言い…、

だからと言って、トゲトゲしているわけじゃない。

クスっとさせられる、シニカルなユーモア、

どれも、全部好きだなぁ。

 

心がほっこり、っていうのも、もちろんいいけれど、

甘いことなんて一つもない、この世の中で、

口の端っこを片方だけ、釣り上げて笑ってみせるような、

意地悪さが、いいなぁ。

 

皮肉たっぷりだけど、軽めのストーリーは、

読みやすく、読んだ後、妙に心に引っかかってくる。

 

それこそ、大人の、コージーミステリーじゃ、ありませんか。

 

さて、この物語の主人公は、元警察官の大道寺圭。

警官時代に遭遇した、おバカな犯罪者の事件を書いた

ノンフィクション、「死んでも治らない」がまあまあの売れ行きを示した。

 

その大道寺が、なんだか、バカっぽい犯罪に巻き込まれる

五つの話が描かれる。

バカっぽいとはいえ、殺されかけたり、と、

命の危険にもさらされるのだが、

そこは、何となく、葉村に似ている。

 

五つの話の合間に、大道寺の警官最後の事件が挟まっている。

その構成にも、意味があるんだろう、けどね。

 

シリーズ化はなかったんだろうか。

大道寺の過去も知りたかったんだけど。

 

待ってました!お帰り、新宿鮫…。大沢在昌さんの「暗約領域 新宿鮫XI」を読む。

 

暗約領域 新宿鮫XI

暗約領域 新宿鮫XI

  • 作者:大沢在昌
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/11/19
  • メディア: 単行本
 

 

 

ホントに、本当に、待ってました。

 

「新宿鮫」が帰って来てくれて、

嬉しいの一言だ。それ以外にない。

 

待ちわびていたのは事実だが、

桃井を失い、晶とは別れてしまい、

ボロボロになったであろう鮫島の変わりようを

見せられるのではと、恐れもしていた。

 

もちろん、ボロボロなのだろうが、

荒れてどん底に沈んだ鮫島を見ることはなかった。

 

彼が逃げ込むのは酒なんかじゃなく、

やはり、事件捜査なんだと、あらためて思う。

 

相変わらず、男くさい物語だ。

 

クールで情け容赦ない男たちの繋がりの中で、

それでも、少しは理解しあい、

情のやり取りが垣間見えるとき、胸が熱くなる。

 

香田、永昌、浜川、黒井、権現、藪…。

筋の通った男たちが、それぞれの筋を貫き通す。

 

だが、桃井の後釜として、女課長が登場したのには

驚いた。

 

これから、この課長、阿坂と鮫島との関係性に注目したい。

 

だが、だ。

 

鮫島を理解でき、鮫島の盾になれるのは、

桃井以外居ないだろう、居ないはずだと思いたい。

 

ワタシは、新宿鮫の新作が出ると、そのページを開く前に、

まず、第一作目を読み返す。

それは儀式のようなもの。

 

一作目の最後の一行を堪能してから、

新作を開きたいのだ。

桃井と鮫島の強い絆のはじまりを示す言葉で終わっているから。

 

桃井に事件の報告を済ませ、刑事部屋を出た鮫島に晶が問う。

「誰と話してたんだよ」

鮫島は晶に答えるのだ。

「新宿署で最高のお巡りと」、と。

 

この一言を毎回かみしめ、二人の関係、熱い思いに

触れながら、新作を読んできた。

 

だが、桃井は、もういない。

 

この儀式をする意味は、ない。

 

新宿鮫の第一章は、本当に終わってしまったという事実を

突き付けられる。

こんな寂しいことはない。

 

さて、今回も、中国人犯罪者、新宿ヤクザ、

北朝鮮の工作員、殺し屋、公安などなどが、

相変わらず絡まりあい、複雑な様相を呈している。

 

クスリに関するタレコミを基に、

ヤミ民泊を張り込む中、藪と鮫島は男の射殺体を発見する。

 

被害者の身元を探るうち、桃井を失った事件の

関係者や、組織が再び、姿を現す。

 

そしてもう一つ。

最後の最後まで、ひょっとしたらと、期待していた。

晶が現れるのではと。だが…。

 

 

「鷹の目」の異名を持つ女刑事が、フグ毒による連続殺人に挑む…。梶永正史さんの「組織犯罪対策課 白鷹雨音」を読む。

 

組織犯罪対策課 白鷹雨音 (朝日文庫)

組織犯罪対策課 白鷹雨音 (朝日文庫)

  • 作者:梶永正史
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2017/02/07
  • メディア: 文庫
 

 

 

「鷹の目」ともいわれる、タフで洞察力に優れた女刑事、

白鷹雨音が、頭脳を働かせ、犯人を追い詰めていく、

警察小説の王道だろう。

 

頑固で折れないキャラだが、

ストーリー展開の邪魔にはならないし、

読みやすい。

 

まあ、登場人物のどのキャラも、

すんなりと受け入れられるのだが、

相棒にされた新米刑事、「ウサギ」が、

少々うっとうしい…、とはいえ、

これも、それほど、邪魔にはならないか。

 

井之頭公園で、ピエロ姿の死体が発見された。

化粧の下には、謎の文字「1/TTX」が。

 

死因は、ジワジワと死に至る、フグの毒、テトロドトキシンだという。

 

さらに、同じ毒による第二の事件が。

現場には、「2/TTX」の文字が残されていた。

 

事件は、まだ、続くのか…。

 

過去に関わった女児殺人事件との関連が

浮かび上がってくるのだが。

 

 

 

悪夢の解明が、連続殺人の謎を解き明かす。フロイト、あかね、ヲタ森の活躍、二作目。内藤了さんんの「夢探偵フロイト てるてる坊主殺人事件」を読む。

 

夢探偵フロイト: -てるてる坊主殺人事件- (小学館文庫キャラブン!)

夢探偵フロイト: -てるてる坊主殺人事件- (小学館文庫キャラブン!)

 

 

 

このフロイトシリーズは、まだ二作目ということもあってか、

登場するレギュラー陣のキャラはくっきりとしていない。

 

というか、一応主人公である、

私立未来世紀大学の学生、あかね、

そして、同大学の夢科学研究所の教授、フロイト(風路亥斗)、

彼の助手である引きこもり研究者のヲタ森、

この三人が一つにまとまり、チームとしてのキャラが

できあがりつつある。

 

それは、チームものでありながら、

一人ひとりのキャラが際立っている、

別の作品、「猟奇犯罪捜査斑」シリーズや

「よろず建物因縁帳」シリーズとは、少々、異なるのかもしれない。

 

それは、人物のキャラに引きずられない、

ストーリー性を楽しめるということか。

(別のシリーズが、キャラに引きずられている、ということではない)

 

ともかく、フロイトが夢を研究するきっかけに、

何かしらの謎があるということが示されたし、

ワタシたち、読者の興味をさらにあおることになる。

 

今回は、安眠枕の開発実験に参加したある女性の悪夢が

連続殺人事件に繋がっていく。

 

てんでバラバラの三人が、いつしか賞金稼ぎの最強チームに。でも、クセが強すぎる…。川瀬七緒さんの「賞金稼ぎスリーサム!」を読む。

 

賞金稼ぎスリーサム!

賞金稼ぎスリーサム!

 

 

 

この作家さんのストーリーテリングの確かさは

これまでの作品で十分証明済み。

絶対的な安心感と安定感で、結末まで一気に走り抜ける。

 

この作品を引っ張っていくのは、

まあ、何事もなかったのなら、

決して交わることがなかったであろう三人組。

 

寝たきりの母親を介護するためにキャリアを捨てた

元刑事、薮下。マザコンの毛がある彼は、四十三歳だが

独身を貫いている。

 

警察マニアと呼ばれる金持ちのボンボン、淳太郎。

ただのボンボンではない。警察マニアになったのにも、

訳があり…。

 

そして、多くの狩猟資格を持つ、生まれながらのハンター、上園一花。

「狩人」として優れた素質を持ち、幼いころからハンターとして

育てられたが、それ以外の生き方、人との接し方を知らない。

 

三人が三人とも、これ以上ないほど、

個性、いやクセが強すぎる。

それぞれが主人公の物語を読んでみたいほどだ。

 

だからこそか、チームとして一つにまとまっていく過程が

実に心地よい。

 

中心人物ばかりではない。

脇役にも、魅力的な人物は多い。

もう少し、目で追っていたいと思わせる。

例えば、この作品では、薮下のところに通ってくる

介護士の香織とか…。

 

三人とも、人並外れた優れたものを持ちながら、

何かが欠けている。

その何かを、チームとして行動する中で、

埋めることができるのか。

いや、欠けていることも、それぞれの魅力なのだろう。

 

年齢も、生まれも育ちもまったくバラバラな三人が出会い、

チームとして動くきっかけは、

下町で起きた放火殺人事件。

あるペットショップが焼かれ、その火事で近隣住民、六人が

焼け死んだ。

 

警察は、そのペットショップ店主を犯人として容疑を固めていくが、

淳太郎は、真犯人は他にいると考え、

調査の協力を薮下に依頼する。母親の介護資金を得たい薮下は、

警察マニアの淳太郎に反感を覚えながら、協力を承知する。

 

火災現場を訪れた二人の前に現れたのが、可憐なワンピース姿に

日傘をさした一花だった。

 

三人は、警察の報奨金を目当てに手を組むことに。

 

薮下と淳太郎は、ぶっ飛んだ性格の一花に

振り回されながら、それでも一花の優れた資質を受け入れていく。

 

このチームに、何としてもまた会いたいと思うが、

どうやら、続編がありそうな気配。

シリーズ化してくれるのなら、うれしい。

 

ただ一つ、タイトルに、もうひとひねりあったら…。

 

刑事時代の風間に会える、相変わらず指導官なのだが…。長岡弘樹さんの「教場0 刑事指導官・風間公親」を読む。

 

 

教場0 刑事指導官・風間公親 (小学館文庫)

教場0 刑事指導官・風間公親 (小学館文庫)

 

 

 

 

風間教官シリーズの三作目、風間公親の刑事時代、

警察学校の教官になる前の物語なので、エピソードゼロだ。

 

犯人がすでに判明している、いわゆる倒叙モノ。

 

風間が刑事指導官として、新人の指導にあたる

「風間道場」に放り込まれた新人刑事が

探偵役となって事件の謎を解明していく。

 

六編の連作。

事件捜査で、風間の指導を受ける六人の新米は、

鬼教官から「交番勤務に戻りたくなければ…」と、

厳しい言葉を投げかけられる。

 

それは、単なる威しではない。

 

門下生である新米が、捜査に行き詰った時でも、

風間の鋭い眼は、全てを見通している。

そして、ヒントを与えるのだが、最小限だ。

 

優秀で厳しい指導官の下での「修行」は、

ラッキーなのだろうが、胃に穴があきそうだ。

 

ホントは、風間が舞台の真ん中に立って、

難解な事件に挑む姿を、長編で読みたいとは思うのだが、

そうなると、「教場」シリーズではなくなってしまうか。

 

「あとがき」を読むと、どうやら、二〇二〇年新春に、

「教場」のTVドラマが放映されるという。

風間を演じるのが、〇〇〇〇さんだそうだ。

 

う~ん。

 

ワタシの頭の中には、もうすでに、風間のイメージが確立されており、

その姿は、〇〇〇〇さんではなく…。

 

冴えわたる、推理も、スィングも…。田中啓文さんの「辛い飴 永見緋太郎の事件簿」を読む。

 

辛い飴 (永見緋太郎の事件簿) (創元推理文庫)

辛い飴 (永見緋太郎の事件簿) (創元推理文庫)

 

 

 

永見緋太郎シリーズの二作目になる。

 

読む順番としては間違っていて、

これで、三作、読んでしまった。あ~あ。

 

七編の連作には、

甘い、辛い、塩っぱい、酸っぱい、渋いといった

味覚を表す題名がついている。

 

表題作の「辛い飴」ももちろんいいが、

特別編としてプラスされた「さっちゃんのアルト」、

個人的には、一番好きだ。

 

伝説のブルースマンや、密室から消えたグランドピアノ、

ある島に伝わる民俗音楽など、

相変わらずの、音楽バカ、永見と、

彼を見守る唐島とのコンビを中心とした

音楽、ジャズ界、ミュージシャンをめぐる

謎と音楽バナシ、時々、ハートウォーミングで、

ユーモアたっぷりの物語が十分、堪能できた。

 

 演奏シーンの描写のすばらしさは、

前にもさんざん、紹介した。

もう、付け加える言葉はない。

 

で、余計なことだが、

「甘い土」で、音楽バカの永見が、

音楽以外の「スリの才能」を垣間見せている場面が

へ~ってなもんで、面白かった…。