唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

毎日でも通いたくなる、そんな店、「パ・マレ」。そのシェフ、三舟が客に披露するのは料理と、そして謎解きと。近藤史恵さんの「タルト・タタンの夢」を読む。

 

タルト・タタンの夢 (創元推理文庫)

タルト・タタンの夢 (創元推理文庫)

  • 作者:近藤 史恵
  • 発売日: 2014/04/27
  • メディア: 文庫
 

 

 

事件とも呼べない小さな出来事。

 

でも、そのもつれた糸をほぐすことによって、

人の人生が大きく変化する。

そのきっかけを作るのが、

ビストロ「パ・マル」の三舟シェフ。

 

下町の商店街の中にある、小さな店。

スタッフは、シェフの他、スーシェフの志村さん、

ソムリエの金子さん、そして語り手でもある

ギャルソンの高築の四人だけ。

 

七話の短編が収められ、

どの作品も、客が持ち込む何気ない違和感や、

ちょっとしたトラブル、歪みを、

三舟シェフの優れた洞察力や、推理力で、

あるべき方向に、そして形に整えていく。

 

きっと、三舟シェフが供する、

肩肘張らなくてもいいフランス料理と同じく、

難しい顔をせずに構えずに読める、

そんな、軽く、ゆるやかなミステリーだ。

 

七話もあるのに、気づけば、いつのまにか

読み終わっている。

 

軽すぎて、ちょっと物足りなくも感じるが、

腹八分、これが、おいしいものを味わうときの

ルールだろう。

 

このシリーズ、三作も出ているそうだから、

まだまだ、楽しめそうだ。

 

 

元刑事、凄腕ハンター、警察マニアという風変わりなトリオが、異常な謎に挑む。川瀬七緒さんの「二重拘束のアリア 賞金稼ぎスリーサム!」を読む。

 

二重拘束のアリア~賞金稼ぎスリーサム!~

二重拘束のアリア~賞金稼ぎスリーサム!~

  • 作者:川瀬七緒
  • 発売日: 2020/07/30
  • メディア: Kindle版
 

 

 

期待を裏切らない作家さんだと、つくづく思う。

 

元刑事の薮下、大企業の御曹司のクセに警察マニアの淳太郎、

そして、凄腕のハンター、一花。

ちょっと、いや、大分、風変わりなトリオが、

ギクシャクしながらも、謎を解き明かし、犯罪者を追い詰めていく、

「賞金稼ぎスリーサム」の続編。

 

前作で相手にしたのは、国際指名手配を受けているテロリストで、

いうならば、分かりやすい犯罪者だった。

だが、今回の事件は…。

どす黒い異常性が見え隠れしてきて、

鳥肌が立つくらい。

 

明確に表にあらわれない悪意は厄介で、

後から、あれは悪意だったのだとわかると、そら恐ろしい。

 

前回、テロリストを追い詰めた三人は、ルワンダ政府から一億円という

懸賞金を手にし、刑事事件専門調査会社「チーム・トラッカー」を

立ち上げる。

 

三人のつかず離れずの関係は相変わらずだが、

関係の土台となる信頼は、ぐっと強くなっているようだ。

 

今回は、一花のハンターとしての天才ぶりと、

危うく、恐ろしいキャラが色濃く表れていた。

 

人との距離の取り方がわからず、普通の人間関係を築けない一花。

正反対に、どんな相手でも、その懐にスッと入れてしまう淳太郎、

あまりにも特異な性格の二人の間にあって、

バランスの取れた常識人に見えてしまう薮下。

 

だが、淳太郎にしろ、薮下にしろ、

過去に傷を負っている。

 

事件の謎解きと同時に、完璧ではない彼らが、

お互いを思いながら、足りないところをフォローしあう、

三人の関係性も作品の醍醐味なのだろう。

 

この作家さんのもう一つのシリーズ、「法医昆虫学捜査官」シリーズに

登場する岩楯刑事と薮下が、どうしても重なって見えてくる。

 

赤堀に振り回されながらも、彼女を支えていく岩楯刑事との関係性が、

一花に対する薮下にダブルのだ。

 

前作では、テロリストを追い詰めながら、

逃げられてしまう。

そして、今回の結末は…。

 

っていうか、今回は、賞金稼ぎから外れているようなのだが…。

 

三年前の若夫婦が死亡した事件。

警察は捜査の結果、現場に第三者がいた痕跡はなく、

壮絶な殺し合いの末、お互いを死に至らしめた

「無理心中」と結論付けた。

 

その結論に納得のいかない、死亡した妻の両親は、

「チーム・トラッカー」に再調査を依頼する。

 

若夫婦は、なぜ、「殺し合い」をしなければならなかったのか。

「チーム・トラッカー」が始動する。

 

 

「賞金稼ぎ」シリーズももちろん、期待しているが、

「法医昆虫学捜査官」の続編、お待ちしています。

 

昆虫オタク? それとも…? おとぼけ青年、魞沢の謎解きは遠慮がち。櫻田智也さんの「サーチライトと誘蛾灯」を読む。

 

サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

サーチライトと誘蛾灯 (創元推理文庫)

  • 作者:櫻田 智也
  • 発売日: 2020/04/20
  • メディア: Kindle版
 

 

 

一話目を読み、青年、魞沢のおとぼけぶりが、

何だか、メンドーくさそうで、離脱を考えたのだが、

二話、三話と読み進めるうち、

作品全体に引き込まれていった。

 

昆虫好き?、あるいは専門家なのか?

いずれにしても、最後まで正体不明なのだ、

魞沢という青年は。

 

名探偵とは言えども、変人ぶりやおとぼけぶりは、

かなり、苛つかされる場合が多い。

 

変人名探偵は定番だとは思うが、

それだけで、読者を離脱させてしまうのは、もったいない気もする。

 

読み進めるうち、苛つきが消えてしまったのは

なぜなんだろう、と不思議に思う。

 

おとぼけが変わるわけでもないのに…。

 

魞沢に関わる人々も、彼を「変わり者」と思うだけで、

受け入れてしまっている。

 

おかしみと温かさを、そして、

ふわりと緩い感じを、彼から受け取るせいか。

 

それが、作品全体の印象になっている。

 

続編もまた読みたい、そんな気にさせる作品だ。

いつか、彼の正体が明かされるのだろうか。

 

 

 

丸の内の片隅で営業する「ばんざい屋」、女将のおいしい総菜とミステリーを今夜も…。柴田よしきさんの「ふたたびの虹」を読む。

 

ふたたびの虹 (祥伝社文庫)

ふたたびの虹 (祥伝社文庫)

 

 

 

恋愛ミステリーがうまい。

しっとりと、心に染み入ってくる言葉が秀逸。

 

二十年近く前の作品だが、色あせない。

再読なのだが、新鮮な気持ちで読める。

一文字一文字、大事に読みたい、そんな想いを抱かせる。

 

こんな女将がやっている、こんな店が傍にあれば、

毎日でも通いたい。

 

街の片隅で、ひっそりと、営業するバーや小料理屋。

店には、控えめだが、心温まる料理を提供してくれるマスターや

女将がいる。

 

しかも、彼らは、店の客たちが持ち込む事件や謎を、

出しゃばらない態度で、いつのまにか、解き明かしてくれる。

 

例えば、北森鴻さんが描くところの「香菜里屋」シリーズのような。

 

この「ふたたびの虹」を読んですぐに、「香菜里屋」を思い出した。

この作品に登場する「ばんざい屋」の女将と、

「香菜里屋」のマスターは似ている。

 

七編が収められおり、ストーカーや殺人など、ぶっそうな物語もあるが、

女将である「吉永」が与える何気ないヒントが、

事件の真相を浮かび上がらせる。

そして、女将の温かな言葉と料理が、客の傷ついた心を癒してゆく。

 

女将には悲しい過去があるのだが、

その過去も、徐々に清算されてゆく…。

 

続編もあります。

 

 

 

栞子さんと、大輔と、そして扉子の、本をめぐる新たな物語。二作目、今回は横溝正史作品。三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖II~扉子と空白の時~」を読む。

 

 

 

前シリーズ、「ビブリア古書堂の事件手帖」が完結して、

あ~あ、と思っていたら、嬉しいことに、

新しいシリーズが始まっている。

 

栞子さんと大輔が結婚し、

そして、娘が生まれ…。

 

篠川家の血筋を引いた、

「本を読まないという選択肢はない」ほど本好きというか、

呼吸をするように本を読む扉子が加わった物語。

 

今作は、新シリーズの二作目になる。

これまでと同じように、

本にまつわる謎を、栞子さんが推理、解明するのだが、

今回の本は、横溝正史作品で、

それだけでも、テンションが上がった。

 

横溝作品は、若いころ、夢中になって読みふけったもの。

 

殺人の派手な舞台や、おどろおどろしい雰囲気、

ホラー小説よりもホラーで、

当時、一番ハマった、作家さんだった。

 

この世に存在していない「雪割草」と、

そして、「獄門島」の二作品が題材となる。

 

本にまつわる相談事をなんでも引き受けてきた

ビブリア古書店。

今回持ち込まれたのは、横溝正史の「幻の本」が

盗まれたというものだった。

 

物語は、扉子が、栞子さんの母親、

つまり祖母である篠川智恵子から、

大輔がしたためている「事件手帖」を持ってくるよう言われ、

ある店で祖母を待つプロローグから始まる。

 

この篠川智恵子という人、不可解だ。

 

前シリーズ七巻、すべて読んでも、

この人の真意、感情、思いがつかめない。

 

これまで栞子さんが関わった本にまつわるトラブルの

黒幕であったことも幾たびかある。

 

新シリーズでは、彼女はロンドンに住み、

大輔や栞子さんが、時々、ロンドンまで出かけ、

何か、手伝いをしているのだという。

 

それも、少々不可解。

 

煮え湯を飲まされたこともあったはずなのに。

 

そして、扉子の立ち位置だ。

 

まだ、今作でも、どんな役割を担うのか、

明らかになってはいないが、

篠川智恵子が扉子に接触してきたのは、

これから何かありそうで。

 

今後、徐々に、扉子が物語の中心に入り込んでくるのだろう。

副題に「~扉子と。。。」とあるのだから。

それはそれで、楽しみもあるが、

「ビブリア古書店の事件手帖」はあくまでも、

栞子さんと大輔の物語であって欲しいと思うのは、

違うか。

 

「潔癖」刑事、田島と、相変わらず空気を読まない女刑事、毛利との、最も噛み合わないコンビ、再び。梶永正史さんの「潔癖刑事 仮面の哄笑」を読む。

 

潔癖刑事 仮面の哄笑 (講談社文庫)

潔癖刑事 仮面の哄笑 (講談社文庫)

  • 作者:梶永 正史
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: 文庫
 

 

 

「潔癖刑事」シリーズの三作目。

 

モノはあるべきところにあるべき形で。

バランスを過剰に重要視する、警視庁捜査一課の田島。

そして、帰国子女で、傍若無人の女刑事、毛利。

毛利の指導役を押し付けられ、コンビを組まざるを得なくなった田島だが、

相変わらず、彼女に振り回されっ放しだ。

 

この二人、どちらも、魅力あふれるキャラだとは言い難く、

毛利の言動には、時々、ムカつくし、

田島は田島で、個人的には、お近づきになりたいキャラではないし。

 

だが、このコンビ、妙にクセになる。

 

二人のやり取りは、たまにウザいんだが、

言い負かされる田島を見るのが、だんだん、面白くなる。

 

さて今回。

数人が負傷し、男性が一人死亡するという乱射事件が

公園で発生した。

 

死亡した男性は、警察官だった。

 

犯人は、現場で警官に射殺される。

田島は、この乱射事件に不可解なものが感じ…。

 

「日本をバージョンアップする」が口癖、本気で国を守ろうとする男の物語、新シリーズ始動。榎本憲男さんの「DASPA 吉良大介」を読む。

 

DASPA 吉良大介 (小学館文庫)

DASPA 吉良大介 (小学館文庫)

 

 

 

この作家さんの別のシリーズ、「巡査長」シリーズと

リンクしていると知り、手に取った。

 

主人公は、警察庁警備局出身の、エリート官僚、

吉良大介。

テロなど、国家の緊急事態に対応するため、

内閣府に設置された新チームの、インテリジェンス斑のサブチェアマンに

任命された。

 

新チーム発足前夜の物語。

 

リンクしていると言っても、巡査長、真行寺弘道とは、

建物内ですれ違ったり、一言二言、言葉を交わすだけ。

 

真行寺の上司、水野も登場したが、

それほどの絡みはない。

 

ま、リンクしていると言っても、別シリーズで、

こちらはこちらの、ちゃんとした主人公がいるんだから。

 

ただ、巡査長シリーズでも活躍する天才ハッカー、

「黒木」がしっかり顔を出しているのが、うれしい。

 

作品の後半部分で、尾関議員の殺害事件が描かれていたので、

時系列的には、巡査長シリーズの一作目あたりだろう。

 

吉良という男は、結構、単純な男のようだ。

「日本のバージョンアップ」を目指し、

かっこよさを重んじる、デカいことがかっこいいと、

本気で思っている。

 

国を守るという大義を体の中心に据え、

それを生きる意味にしようとしている。

そういう点では、まともすぎるほどまともだ。

吉良の周囲に居る女性たちには、「怖い」と評されている。

「国なんていう幻想に必死でしがみつこうとしているのが

不気味」なんだそうだ。

 

ロシアの元二重スパイが東京で毒殺されたり、

その娘が登場し、吉良がハニートラップに掛かったり、

省庁間の画策とか、きな臭い話もいろいろあるのだが、

中心は、骨抜きではない「スパイ防止法案」を成立させようと

悪戦苦闘する吉良。

 

権謀術数渦巻く機関にあって、吉良の人間性に腹黒さを感じないのは、

彼の哲学ゆえか。

 

バイオリンをたしなむ彼は、

「バッハは音楽を通じて宇宙とつながっていた。宇宙から

送られてくる調べを音符という記号に変換して、

書き残したと言ってもいい。

そして、バッハを弾けば、こんどは僕が宇宙に

つながることができる。そう信じているんだ」

 

こう、語る彼は、情報機関のエリートというより、

文系の学生のようだ。

こんな話が、ところどころ語られる。

 

手に汗握るというほどではないが、

ノンストップで読まされた。

 

なんだか、巡査長シリーズを

読み返したくなった。