唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

「日本をバージョンアップする」が口癖、本気で国を守ろうとする男の物語、新シリーズ始動。榎本憲男さんの「DASPA 吉良大介」を読む。

 

DASPA 吉良大介 (小学館文庫)

DASPA 吉良大介 (小学館文庫)

 

 

 

この作家さんの別のシリーズ、「巡査長」シリーズと

リンクしていると知り、手に取った。

 

主人公は、警察庁警備局出身の、エリート官僚、

吉良大介。

テロなど、国家の緊急事態に対応するため、

内閣府に設置された新チームの、インテリジェンス斑のサブチェアマンに

任命された。

 

新チーム発足前夜の物語。

 

リンクしていると言っても、巡査長、真行寺弘道とは、

建物内ですれ違ったり、一言二言、言葉を交わすだけ。

 

真行寺の上司、水野も登場したが、

それほどの絡みはない。

 

ま、リンクしていると言っても、別シリーズで、

こちらはこちらの、ちゃんとした主人公がいるんだから。

 

ただ、巡査長シリーズでも活躍する天才ハッカー、

「黒木」がしっかり顔を出しているのが、うれしい。

 

作品の後半部分で、尾関議員の殺害事件が描かれていたので、

時系列的には、巡査長シリーズの一作目あたりだろう。

 

吉良という男は、結構、単純な男のようだ。

「日本のバージョンアップ」を目指し、

かっこよさを重んじる、デカいことがかっこいいと、

本気で思っている。

 

国を守るという大義を体の中心に据え、

それを生きる意味にしようとしている。

そういう点では、まともすぎるほどまともだ。

吉良の周囲に居る女性たちには、「怖い」と評されている。

「国なんていう幻想に必死でしがみつこうとしているのが

不気味」なんだそうだ。

 

ロシアの元二重スパイが東京で毒殺されたり、

その娘が登場し、吉良がハニートラップに掛かったり、

省庁間の画策とか、きな臭い話もいろいろあるのだが、

中心は、骨抜きではない「スパイ防止法案」を成立させようと

悪戦苦闘する吉良。

 

権謀術数渦巻く機関にあって、吉良の人間性に腹黒さを感じないのは、

彼の哲学ゆえか。

 

バイオリンをたしなむ彼は、

「バッハは音楽を通じて宇宙とつながっていた。宇宙から

送られてくる調べを音符という記号に変換して、

書き残したと言ってもいい。

そして、バッハを弾けば、こんどは僕が宇宙に

つながることができる。そう信じているんだ」

 

こう、語る彼は、情報機関のエリートというより、

文系の学生のようだ。

こんな話が、ところどころ語られる。

 

手に汗握るというほどではないが、

ノンストップで読まされた。

 

なんだか、巡査長シリーズを

読み返したくなった。