小路幸也さんの「ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン」を読む。
「LOVEだねぇ」。「東京バンドワゴン」シリーズ、待望の最新刊。下町の大家族から愛のおすそわけ。
十周年のときが十一作目。というから、大体一年に一作という恒例行事の
ような、来年を楽しみに待つような、気持ち。
そして、今作が第十三弾。
もともと大家族の堀田家なのだが、
誰かと誰かがくっついて、子どもが生まれ、
そうこうしているうちに、さらにサイズは膨らんでいく。
堀田家周辺でも、登場人物がどんどん増え、
縦の関係、横の関係が広がり、誰だっけ?と、
思い出すのが難しい。
昭和の香りあふれる街並みは相変わらずで、
サチさんのおしゃべりが、思い出の中へ連れ帰ってくれる。
サザエさん一家と違って、家族は年を重ね、
この作品では、研人も高校生ミュージシャンとなり、
大人ほど稼いでいるとか。
花陽は、医者への道を歩み始めている。
「東京バンドワゴン」シリーズは、作中で、
「LOVEだねぇ」という我南人のキメ台詞どおり、
暖かい愛に溢れた物語である。
悪意のかけらも見つからない。
悪意のほうが幅を利かす現代にあって、
束の間、ほっこりさせてくれる。
それは、もちろん、大歓迎なのだが、
少々剣呑な事件に発展しそうな出来事が描かれていた
初期のころのように、少しは波風をたたせてもらいたいなと、
贅沢な望みを抱いてしまうこともあるのです。