唯一ノ趣味ガ読書デス

ハードボイルドや刑事モノばっかりですが、読んだ本をご紹介。

香納諒一さんの「無縁旅人」を読む。

『刑事さん、孤独って何だかわかりますか。それは、ひとりっきりで話す相手がいないことじゃありません。自分が、誰か自分以外の人のために、何かして上げられる存在ではないと思い知ること』

 

人がたくさん集まる都会。

周りを多くの人が行きかい、喧騒にあふれ、

活気のある都会に生きても、寂しい。


いや、人が多くいればいるほど寂しさは増す。

隣を歩いている人、座っている人は家族でも、友人でもなく

「単なる人」。

挨拶を交わすわけでも、心を通わすわけでもない。

「単なる人」ばかりの中では余計に、「独りぼっち」という感覚が際立つ。

 

十六歳の少女が、他人のアパートの一室で死体となって発見された。

遺留品の中に、ネットカフェの会員証があり、

捜査から、片桐舞子という名と、静岡の施設を逃げ出したことが

判明する。

十六歳の少女に何があったのか。

他人の部屋で、なぜ殺されなければならなかったのか。


「贄の夜会」に続く、大河内ら捜一の刑事の活躍を描いた作品。

続編とも言えそうだが、色合いはまったく別物である。


スリル、サスペンスに満ち溢れた前作に比べ、

ここには殺し屋やヤクザのようなとんがった世界はなく、

一つの殺人事件の地道な捜査が淡々と行われていく。


人は自分のためではなく、誰かのために生きられるときにこそ

孤独でなくなる。


淡々とした捜査を通して、若者が背負わされた悲しみが描かれる。


孤独ではありながら、明日を生きようとしていた舞子、

その舞子の明日を奪った人間を、刑事たちが追い詰めていく。

 

 

無縁旅人 (文春文庫)

無縁旅人 (文春文庫)