大沢在昌さんの「砂の狩人」を読む。
相変わらず、男くささがムンムン漂ってくる作品だ。
ハードボイルドとは、冷たく乾いた生き様の物語と思いきや、
男たちが熱い思いを十分に見せつけ、
ずいぶん、ナニワ節じゃ、ないか。
昔、少年犯罪者を射殺したことで警察をやめ、千葉の漁師町に引っ込んでいる
元刑事、西野のもとを、警察庁の女性キャリアが突然訪ねてくる。
そのキャリア、時岡警視正は西野に奇妙な依頼をするのだ。
東京都内などで、暴力団組長の子どもを狙った猟奇殺人が続いている。
時岡は、ヤクザたちによる犯人捜しが始まり、報復、そして殺し合いに発展する恐れが
かなりの確率であることを伝える。
その前に、真犯人を探してほしいと、西野に頼むのだ。
だが、被害者の特異性から、警察上層部は身内の犯行を
疑っており、それが事実の場合、犯人を秘密裏に葬ろうとしている。
そして西野は、新宿へと戻っていくのだが…。
踏み込めばヤバいことになると分かってはいても
足を踏み入れるのは何のため、誰のためなのか。
単に、狩りをする猟犬の持つ体質なのか。
それとも、少年を射殺したその日から、
西野にあるのは破滅願望だけなのか。
ヤクザ、警察、中国マフィアなど、さまざまな人間に
死を引き寄せながら、自らも死に場所を探して
突き進んでいく。
クライマックスに近づくにつれて、
西野、ヤクザ、そして新宿署のマル暴刑事の佐江、
この三人がいつしか奇妙な絆で結ばれていく。
「こうするしかない」、「選択肢などない」という生き方、
「他に方法はなかったんだろうか」という問いかけを
ねじ伏せてしまう生き方は、あまりにも切なくて、胸に迫る。